(編集部・福井洋平)
業界全体のトレンドを把握する
「業界地図」は、各業界の動向を「天気予想」の形で示しています。それ以外にも必要なことは、いまどこが花形業界で、どこが苦境業界になっているかというトレンドを把握することだと許斐編集長はいいます。「どの企業が好調、どの企業が苦しいという報道はあっても、なかなかどの業界が花形、どの業界が苦境という報じ方はしていません。そこで2024年版では業界の市場規模を縦軸、利益率を横軸にとって、規模が大きく利益率も大きい右上のゾーンにくる業界を花形業界、規模が小さく利益率も小さい左下のゾーンにくる業界を苦境業界としてみました」(許斐編集長)
花形業界のゾーンには参入障壁の高い携帯電話事業者や、近年販売価格が高騰している不動産や住宅業界があり、苦境業界にはカフェやホームセンターといった内需産業が目立ちます。市場規模が小さいが利益率が高いゾーンには、半導体製造装置やコンサルといった業界が並んでいます。
(図表は許斐さん提供)
キーワードはDX、グローバル、人口減少
花形業界と苦境業界を分けるポイントは、3つのキーワードがあると許斐編集長は指摘します。DX(経営改革)②グローバル競争③人口減少 です。① DX関連・経営改革
デジタルトランスフォーメーション(DX)による経営改革は近年、どの会社でも大きな経営課題となっていますが、自社のリソースでそれをやりとげられる会社は限られています。そういったときに好況となるのがコンサルタントやクラウド、システム開発、ソフトウェアといった業界です。コンサル業界は戦略系、人事系、IT系など得意分野によりすみ分けがありましたが、DX支援のニーズが高まるにつれてどの業務もできる総合コンサルティングの勢いが増し、それ以外の会社も業務の垣根を越えるようになって、すみ分けがなくなってきていると許斐編集長はいいます。
また、DXとは離れますが、経営改革の手段として他の会社を買い取るM&Aも注目されています。「M&Aの仲介業者は高収益で、花形業界とみています」(許斐編集長)
② グローバル競争
人口減が進む国内市場ではなく、世界市場で戦えているかどうかも、花形業界を見分けるポイントです。たとえば半導体業界は、生成AIなど世界的に好調なIT業界を支える業界として今後の成長が見込まれます。半導体業界のなかでも、半導体をつくる機械のメーカーは企業数が少なく、レーザーテック、ディスコ、アドバンテストといった大手企業はここ10年で時価総額が10倍以上に伸びています。一方、半導体そのもののメーカーは海外メーカーが強く、日本の企業は再編を繰り返していますがこれからさらに再編が起こるかもしれません。
人口減少が向かい風の業界、追い風の業界
③人口減少グローバルに強い企業が伸びる反面、内需だのみの業界はどうしても苦戦傾向にあります。ただ、そのなかでも成長を続ける業界はあります。
ひとつが、人材業界です。どの企業も人手不足に悩まされており、人材業界にとっては追い風となっています。すき間時間を使った「スポットワーク」サービスも伸びてきており、2025年版では巻頭の特集で取り上げています。
内需頼みで苦戦するとみられている小売りの業界でも、細かく見ると業態によって利益率が違ってきます。
「ライフ」など、生鮮食品を扱うようなスーパーは廃棄損もあって仕入れ値が高くなり、利益率が低くなりがちです。このため、再編も進んでいる業界です。
一方でコンビニ大手のセブン―イレブン・ジャパンは、フランチャイズ店からロイヤルティーを得るビジネスモデルのため、原価がぐっと低くなり利益率は高くなります。また、SPA(製造小売業)という業態も注目です。これは家具販売のニトリなど、自社で製品の企画から製造、販売までを手がける業態で、卸売業者にマージンを払う必要がないため利益率をあげることができます。このように各社の業態、ビジネスモデルの違いを把握すると、今後成長しそうかどうか、その企業にはどういった仕事があるのかも理解しやすくなるでしょう。
また、スーパーの業態でも株価を伸ばしたのが「神戸物産」です。企業名を見てもぴんとこないかもしれませんが、「業務スーパー」と聞けばわかる人も多いのではないでしょうか。物価高のなか、100円ショップが原価率上昇に悩むなかでディスカウント店は伸びを見せています。
長期的に伸びる業界、沈む業界はどこか
さらに長期的に伸びる業界、沈む業界は、どうチェックすればいいでしょうか。
人口が減っていく中で、需要が伸びる業界、就業者が確保できる業界はぐっと限られてくるでしょう。そのなかでも期待できるのが、高齢化で需要の伸びが期待できる医療・介護業界や、外需に強い自動車業界などです。一方、需要、就業者ともに縮小すると見込まれる農業系などは、今後の苦戦が予想される業界となります。
医療・介護業界は市場の伸びは期待できますが、もともと収益の多くを国の給付に依存しているため、国の政策によっては増収が見込めないことも考えられます。そんななかでも高い利益率を出している企業をチェックすると、たとえば介護施設に特化して高額の報酬が必要になる医師を施設に置かない、などの工夫をしていることがわかったりします。
「大変そうな業界のなかでも利益率が高い企業をチェックすると、掘り出しもののような企業にであえるかもしれません」(許斐編集長)
(注)IT系の就労人口が大きく減るのは、AIによる合理化効果を見込む一方、雇用創出効果などを見込まないため
(出所)労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計」(2019年)を基に東洋経済作成
新しく生まれる業界もチェック
新しく誕生した業界にも注目したいところがたくさんあります。
たとえば印刷業界は苦戦が予想されていますが、そのなかでもプリントパックやラクスルなどインターネットで注文から配送まで完結させるネット印刷企業は存在感を増しています。近年影響力を増してきたLUUPなどのレンタル移動手段や、テレワークで注目されるようになったコワーキングスペースなどのサービスを提供するシェアリングエコノミー、高齢者に帯する見守りサービスなど、業界規模はまだ小さくても今後成長が見込めそうな業界は毎年生まれてきています。
「『業界地図』は、あくまで企業研究の入り口です。気になった企業を見つけ出したらぜひその企業の売り上げや事業について調べたり、OB・OG訪問で気になった点を聞くなどして、企業についてより深く深掘りしてみてください」(許斐編集長)
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2024/10/14 更新
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