ニュースのポイント
円相場が値下りしています。「円安ドル高」です。数年前までは「円高不況」と言われ、経済界は円安を望んでいましたが、急激な円安が進むことに対して警戒感も出ています。そもそも、どうして円安になっているのか、円安が続くとどうなるのか――今日は為替相場の基礎を勉強します。
今日取り上げるのは、1面の「円、1カ月で4円安/106円台、リーマン直後の水準」です。総合面(3面)には「米と日欧 景気ギャップ/好況期待 ドルへ投資マネー」もあります。
記事の内容は――円相場は9日、東京外国為替市場で一時1ドル=106円39銭まで下がり、リーマン・ショック直後の2008年10月以来、5年11カ月ぶりの円安ドル高水準に。円は1カ月で約4%下落し4円超安くなった。米国では4~6月期の経済成長率(年率換算)がプラス4.2%と景気回復が続く一方、消費増税で景気が悪化する日本は同じ期間の成長率がマイナス7.1%に。景気の動きを見て通貨を買う投資家たちが経済成長が見込める米国のドルを買って円を売る動きを強めている。円安は、海外でモノを売る日本の輸出企業の収益が増える効果が見込める一方、輸入品が値上がりし、国内企業は仕入れ代や燃料費が上がって収益が減る可能性がある。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
海外旅行に行ったことのある人は、空港やホテルの両替所で、円を現地の通貨に両替したことがあると思います。企業も、貿易など海外と取引する際に海外の通貨が必要です。このため、世界中の銀行などが通貨の売り買いをする外国為替市場があり、東京、ロンドン、ニューヨークが3大市場と呼ばれています。ただ、証券取引所のような取引所は存在せず、取引は電話や情報通信端末、インターネットを通じて行われます。
為替相場は2つの通貨の力関係で決まり、世界中でたくさんの取引が行われているため刻々と変化します。円を他の通貨と交換するときの比率を「円相場」といい、「1ドル=○円○銭」「1ユーロ=△円△銭」と表します。何かの理由で円を買いたい人が多ければ「円高」に、売りたい人が多ければ「円安」になります。仮に1ドル=100円から1ドル=110円に変わったとします。1ドルを手に入れるのに、より多くの円を出さなければならなくなったので「円安」ですね。100ドルのバッグを買うのに必要なお金は、1万円から1万1000円に上がるので輸入品は値上がりします。逆に輸出する製品は割安になるので、売れやすくなります。
日本は長く、原料を輸入して工業製品を輸出して稼ぐ「輸出立国」だったため、円高になると輸出企業が苦しくなり、円安になると輸出企業がもうかって景気が良くなると言う構図でした。ところが、リーマン・ショックや欧州の不況で、安全とみられた円が買われ、この数年は1ドル=80円台の円高が続きました(上のグラフ参照)。これだけの円高水準だと、日本で製品をつくって輸出してももうからないため、電機業界など日本企業の多くが外国に工場を建てて生産する海外進出を進めました。ところが、昨年からのアベノミクスや日銀の金融緩和などで、一転して「円安ドル高」に。まだ輸出も多い自動車など利益が急増した業界もありますが、電機業界などはすでに海外生産が多くなっているため、日本全体としては思ったほど輸出が伸びず、一方で材料や燃料の輸入費用が増えるため、これ以上の急な円安に経済界からも悲鳴が上がり始めたわけです。
今日の記事から、いま円安ドル高が加速している要因を整理します。
◆米国の景気が回復。リーマン・ショックによる不況後、中央銀行にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)は景気を良くするためにお金を世の中にたくさん流通させる「金融緩和」を続けてきたが、10月にも終える見通し。景気の過熱を抑えるための「利上げ(金利の引き上げ)」も実施するとみられる。FRBが利上げすると、米政府が借金のために出す国債など様々な金融商品の金利も上がる。こうした商品はドル建てで発行されるため、ドルを買って円やユーロを売ろうとする投資家が増える。
◆日本は消費増税の影響で成長率が大幅に落ち込んだ。消費税率をさらに10%に引き上げるかどうかを年内に判断することになっており、日本銀行は金融緩和、低金利を当面続ける方針で、米国との金利差が大きくなりそう。
◆欧州もゼロ成長で、欧州中央銀行(ECB)は追加利下げしたため、ユーロを売ってドルを買う動きが強まっている。さらに、英国の一部であるスコットランドで独立機運が高まり、18日に独立を問う住民投票が行われる。独立すると英国の経済力が落ちるため、英ポンドが急落してドルが買われてドル高になり、円安も進んだ。
スコットランドの独立問題が円相場に影響するなんて意外じゃありませんか? このように、為替相場は政治、経済など様々な要因で変動します。円安でブランド品が高くなるなど、身近な生活で感じることも大切ですが、就活では今の円安ドル高が、みなさんが目指す業界や企業にどう影響するのかを考えてみましょう。
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