ニュースのポイント
ネット通販大手の楽天が航空事業に本格参入します。規制が多く、世界でも自由化が遅れているといわれる日本の航空業界。薬のネット通販解禁など規制緩和を主張してきた三木谷浩史会長兼社長が切り込むことで、国内やアジアの格安航空会社(LCC)の競争が激しくなるほか、全日空(ANA)、日本航空(JAL)を軸に展開してきた「日本の空」の姿が大きく変わるかもしれません。
今日取り上げるのは、経済面(10面)の「楽天、料金押さえる戦略か/航空事業参入計画 来夏~秋ごろ運航へ」です。
記事の内容は――楽天はマレーシアのLCC「エアアジア」の新会社に最大3分の1を出資する。新会社は「エア-・イノベーション」(東京都港区)。中部空港を主な拠点に、来年夏~秋の定期便の運航を始める計画だ。エアアジアは機内サービスなどを省いて料金を抑えるのが基本戦略。チケット販売に楽天のシステムを使うなどして投資を抑え、国内のLCCよりさらに安い料金を目指す。三木谷氏は1997年にネット通販の「楽天市場」を創業。産業競争力会議の民間議員をつとめるなど安倍首相とも親しい。薬のネット販売解禁を求めるなど規制緩和に積極的だ。
羽田、成田両空港の離着陸回数の「枠」を国が決めて航空会社に割り振るなど、航空業界には厳しい規制がある。三木谷氏は「空港の高い利用料や枠の制約を何とかしなければ観光立国は実現できない」と言い、エアアジア最高経営責任者のトニー・フェルナンデス氏も「私も似た考えで、政府に影響を及ぼせる人と組みたい」と語っていた。両氏のタッグに、航空業界では「市場がかき回されるのは間違いない」と警戒感が広がる。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
最近「楽天カードマン」のテレビCMが盛んに流れていますね。楽天は、ネット通販国内最大の「楽天市場」を運営し、日本の流通業界に新しい流れを作ってきました。グラフにあるように、買収などでカード、プロ野球、銀行、生命保険といった事業に次々と進出。いま日本で最も勢いのある企業の一つです。三木谷氏は、戦後日本を代表する企業が集まる経団連を飛び出し、ITベンチャー経営者らと「新経済連盟(新経連)」を立ち上げ、薬のネット販売を実現させるなど、旧来型の規制の枠組みを壊してきました。今回は単なる企業提携にとどまらず、とりわけ規制が厳しい航空業界に三木谷氏が殴り込みをかけた形。このため、ことさら大きな注目を集めているのです。
提携では、楽天の子会社で国内最大級の2万9000軒の契約施設をもつ「楽天トラベル」のシステムを航空チケット販売に活用。楽天は顧客層を広げることができます。一方で三木谷氏は楽天の「グローバル展開」を公言し、台湾、タイ、インドネシア、シンガポール、インドアジアなどアジア各国で、ネット通販やカード事業に参入してきました。東南アジアで圧倒的に強いエアアジアの知名度を利用して、さらに楽天ブランドをアジアに広げる狙いもあります。
すでに国内で展開しているLCCでは、ANA系のピーチ・アビエーションが関西空港、バニラエアが成田、JAL系のジェットスター・ジャパンは両空港を拠点にしていました。エアアジアは中部空港を拠点に、成田、茨城、仙台空港などの活用を検討しており、いずれはアジア向けの国際線も展開するとみられます。
今回の参入で航空運賃はさらに安くなるかもしれません。でも、エアライン業界に憧れている人、旅行業界を目指している人は、こうした「消費者目線」だけではいけません。もともとLCCの台頭で変革の波に洗われている業界ですが、楽天の参入でより大きな構造改革を迫られ、「業界地図」が塗り変わるかもしれない、そんな大きな視点で今後の報道に接してください。
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