2014年06月11日

人手不足、人口減…外国人労働者増やすべき?

テーマ:経済

ニュースのポイント

 政府は外国人労働者の受け入れを増やす方針です。経済政策「アベノミクス」の成長戦略の一つですが、定住、移民を受け入れるわけではありません。劣悪な労働条件で働く人を増やすだけとの反対論もあります。これから就職するみなさんにも関わる大きな問題です。一緒に考えてみましょう。

 今日取り上げるのは、1面の「外国人実習の拡大 提言/法相懇談会 労働環境は監視強化」です。総合面(3面)に「外国人頼み なし崩し懸念」、7面に専門家へのインタビュー記事「成長戦略を問う」もあります。
 記事の内容は――外国人に日本で働きながら技術を学んでもらう技能実習制度について、法相の私的懇談会が、いま最長3年の受け入れ期間を5年に伸ばすとする報告書を提出した。対象職種も今の68に介護、林業、自動車整備、総菜製造、店舗運営管理の5分野の追加を検討すべきだとした。制度拡大で外国人労働者を実質的に増やし、労働力不足解消につなげるのが政府の狙い。一方で、実習生が低賃金や長時間労働などの劣悪な環境で働かされている問題があり、監視態勢や不正企業に対する罰則を強化する。政府は今月まとめる成長戦略に盛り込み、来年度からの実施を目指す。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 都心部の牛丼店で時給を1500円に上げてもアルバイトが確保できないなど、人手不足で休業するお店が増え、建設現場でも人手が足りません。せっかく景気が良くなってきたのに、働き手がいなくては持続的な成長はのぞめません。安倍首相は、日本の人口が減っても経済成長を続けられるよう、アベノミクスの「3本の矢」(第1の矢「金融緩和」、第2の矢「財政出動」)の第3の矢「成長戦略」の中に、「外国人の活用」を盛り込みました。具体的には、記事にある技能実習制度の拡充です。

 政府の試算では、現在約6600万人の日本の労働力人口は、2060年には4000万人を割ります。定住を前提とした移民は社会的な負担が大きいため受け入れたくない、というのが安倍政権の姿勢です。そこで目をつけたのが外国人技能実習制度。もともと日本の高い技術を身につけて母国に帰ってもらう国際貢献制度ですが、実習は建前で、多くの企業が安い労働力確保のために使っているのが実態。給料のピンハネ、長時間労働、残業代不払いなど人権侵害が後を絶たず、2012年には8割の事業所で法令違反が発覚しました。国連などからも改善を求められています。

 7面のインタビューでは、埼玉大名誉教授の小野五郎さんが、外国人労働者受け入れについて「日本人の職が奪われ、賃金水準が下がる」「地域でのトラブルが増える」「(人口が減っても)1人当たりの生産性を上げれば経済規模の維持も生活の向上もできる」などとして慎重論を展開。これに対し、日本国際交流センター執行理事の毛受(めんじゅ)敏浩さんは「(人口減で)このままでは介護も地域の農業も支えられない」「外国人受け入れの特区を設けるなど実験的な取り組みを早急に開始すべきだ」「数年の滞在の後に審査のうえで定住の道も認めるべきだ」として、積極的受け入れ策に転換すべきだと主張しました。意見が対立する2人ですが、受け入れ派の毛受さんも「技能実習制度は労働力を格安で使っているのが実態だ。これを広げるのはおかしい」として政府の方針には、ともに反対。法相の懇談会でも、実習という本来の趣旨からずれており新制度をつくるべきだとの意見が出ました。建前と本音の使い分けはもう限界といえそうです。もっと本格的に外国人労働者を受け入れるかどうかの議論をしなければなりません。

 表にあるように、日本で働く外国人の割合は欧米に比べて極端に少ないのが現状です。米国はもともと移民の国です。欧州ではEU内での移動が進み、独仏英では人口に占める外国人の割合が10%を超えています。一方で移民の増加は摩擦も引き起こし、「反移民」を掲げる政党が勢力を伸ばしています。日本より外国人が少なかった韓国は、2004年に雇用許可制度を導入し単純労働者の受け入れにかじを切りました。

 これからの日本のあり方にかかわる大きなテーマです。論点はたくさんあり、就活でも意見を求められる場面があるかもしれません。まずは新聞記事などで材料を集めて、考える訓練をしてみましょう。

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