ニュースのポイント
ほとんどの市販薬がネットで買えるようになります。ただ、安全性に心配がある28品目については、禁止か制限されることになり、全面解禁を求めてきた楽天の三木谷浩史会長兼社長は猛反発しています。背景には、医療用医薬品の巨大市場があります。ネットの可能性、医療のIT化、医薬品の安全性など、考えるべき問題はたくさんあります。ネット時代のビジネスを考えるきっかけにしてください。
今日取り上げるのは、3面の「薬ネット販売 99.8%解禁/政府方針/三木谷氏は猛反発」です。
記事の内容は――政府は市販薬(一般用医薬品)の99.8%の品目のインターネット販売を解禁する一方、エフゲン(殺菌消毒薬)など劇薬5品目は禁止、リアップX5(発毛剤)など市販後間もない23品目は原則3年間かけて安全性を確認できればネット販売を認める方針を発表した。政府は今国会に薬事法改正案を提出し来春から新ルールにしたい考え。三木谷氏は「時代に逆行する」と強く反発し、政府の産業競争力会議議員を辞めると表明した。ネット販売が禁止・制限されるのは全体の0.2%だけなのに三木谷氏が反発するのは、医薬品市場で稼ぎたいネット企業にとって「0.2%の例外」が将来の参入障壁になりかねないため。楽天の狙いは市販薬にとどまらず、医師の処方箋(しょほうせん)が必要な「医療用医薬品」のネット販売だが、医師や薬剤師が対面で薬を処方する原則がある限り、実現しそうにない。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
薬のネット販売は、1万1000品目ある市販薬のうち、ビタミン剤や整腸剤など約3000品目だけ認められていました。他の薬は副作用の心配があるため、リスクの高い薬は薬剤師らが店頭で説明する対面販売をしなければならなかったのです。これに対し、楽天の子会社が国を提訴。今年1月、最高裁でネット販売を禁止する厚生労働省の省令は違法とする判決が出ました。これを受け、安倍政権は「市販薬ネット販売の原則解禁」を決め、高リスク薬の取り扱いを検討していたのです。
薬のネット販売には、薬局が遠い地域の人が便利になる、発毛剤、水虫薬など対面では買いづらい薬を気楽に買える、24時間注文できるといったメリットがある一方、買う人の症状や体調を把握しにくい、薬の説明が十分できず副作用への対応がしにくい、購入量を適切に管理しにくいなどのデメリットもあります。2007年度からの5年間で、毎年250の市販薬の副作用が報告され、24人が死亡しており、日本薬剤師会は薬害が広がりかねないと反対してきました。こうした経緯を踏まえての方針決定について、菅官房長官は「安全性と利便性の両方をしっかり備えた内容だ」と語りました。
この方針に三木谷氏が猛反発しているのは、もっと先を見据えているからです。市販薬の市場規模は約9400億円ですが、医師が処方する医療用医薬品の市場規模は8兆6000円(2011年)と巨大です。処方箋の電子化など医療へのIT活用が進めば、医療用医薬品のネット販売につながる可能性を秘めています。ところが、政府は今回の薬事法改正で「医療用医薬品は対面販売とする」との規定を盛り込もうとしており、ネット企業は売ることができなくなります。三木谷氏は新たなルールに対し「断固として反対し、司法の場で争う」と徹底抗戦の姿勢を見せているのはこのためです。
今回の問題は、医薬品業界、IT業界の話ですが、さらに拡大するネットビジネスのあり方を考える格好の素材です。新聞で今後の展開に注目してください。
今日の33面では、この1年のニュースを朝日新聞ならではの報道写真や豊富な図版などで解説した「朝日新聞 必読ニュース 2013年版」を紹介しています。就活対策にも役立ちますよ。
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