2023年11月08日

様変わりする「転勤」 でもなくならないのはなぜ? 歴史とこれからを解説します【就活イチ押しニュース】

テーマ:社会

 これまで大きな企業で働く際につきものだった「転勤」のしくみが変わりつつあります。転勤に対するマイナスイメージは、コロナ禍でテレワークが普及したこともあって広がっており、就活生が転勤のある企業をいやがる傾向も強まっています。このため、転勤のある企業が転勤時に支給する一時金や手当を増やしたり、転勤そのものをなくしたりする動きが出てきているのです。
 転勤は、日本が高度経済成長していく過程で定着した仕組みです。企業側にも社員を転勤させたい事情があり、転勤制度は一朝一夕になくなったりはしないでしょう。転勤についてどのような仕組みがあるのか、また今後どのように制度が変わっていく可能性があるのか。志望企業の取り組みだけではなく、志望業界を含めた幅広い動向を、ニュースを通して知っておくことは、今後の展開を予測するうえでもとても重要になってきます。今回の記事を機に、ぜひニュースへの関心を深めてください。(編集部・福井洋平)

(写真・PIXTA)

8割の学生が「転勤ない企業志望度上がる」

 就活情報会社・学情が2025年3月卒業生を対象に実施したアンケートによると、転勤のない企業は「志望度が上がる」と回答した学生は51.9%。「どちらかと言えば志望度が上がる」と答えた26.9%を合わせると、転勤のない企業は志望度が上がるとした学生は約8割にのぼります。「住む場所は自分で選びたい」「地元、家族がいるエリアで働きたい」「転勤がないほうが、ライフプランを立てやすい」といった声が上がっているそうです。また、就活に際して勤務地や転勤の有無を「最優先で重視」する学生は19.4%いました。
 テレワークが普及し、自身の生活や家族に大きな影響を及ぼす転勤をいやがる動きは加速しています。ただ、現在でも転勤制度が残っている企業はたくさんあります。そもそもなぜ、転勤なんて制度があるのでしょうか。

(写真・コロナ禍で「隔離」中のホテルからテレワークする様子=2022年2月)

高度経済成長期に転勤制度が定着

 日本は1950年代から70年代にかけ、高度経済成長を経験しました。人口がどんどん増え、工業化も進んで経済が右肩上がりに上昇していったのです。この時代の日本企業の大躍進を支えたのが、いまみなさんが直面している「新卒一括採用 」と、社員を定年まで雇用する「終身雇用制」です。

社員が転勤拒むのはかなり難しい

 社員は転勤を拒めないのでしょうか。法律には定めはありませんが、多くの場合「就業規則」に定めがあります。厚生労働省がつくっている「モデル就業規則」第8条には、「会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある」と記載され、「労働者の意に沿わない就業場所等の変更を命じた場合、トラブルが生じ得ますので、本規則のように就業規則に明記しておくことが望ましいと言えます」と注釈がつけられています。この「業務上必要」という基準は、社員をどうしても辞めさせたくて意に沿わないところに転勤させるといった不当な目的がない限りは幅広く認められるため、社員が転勤を拒むのはかなり難しいというのが現状です。

厚生労働省のモデル就業規則はこちら
(写真・PIXTA)

かつては転勤にメリットあったが……

 転勤制度は、企業にとってはフレキシブルに事業展開をすすめるのに役立ち、人材育成効果もあるため、これまで長く受け入れられてきました。また、社員側にも昇給・昇格のチャンスが得られるというメリットがありました。ただ バブル崩壊後は長期にわたり経済が低迷し、企業が常に右肩上がりで成長するというモデルも崩れ、社員側が転勤のメリットを感じる機会が少なくなってきました。一方で男女雇用機会均等法(1986年施行)を経て共働きが一般的になり、家庭の事情により急な転勤に対応できない社員が男女問わず増えてきました。2001年に改正された育児・介護休業法では転勤に際して育児や介護が困難になる社員がいる場合、その状況に配慮することが定められています。そこへきての、コロナ禍によるテレワークの一般化。確実に昇給・昇格できる見込みもないのに、家庭を犠牲にしてまで転勤する理由がどこにあるのか――そんな考え方が定着するのは当然の流れと思います。

転勤時に一時金50万円

 10月22日の朝日新聞では、そんな流れを受けて企業が人材を確保するため、転勤に伴う手当を増やすほか、転勤そのものをなくす動きもが出ていると報じています。詳しくは下記のリンクから記事を参照してください。
 たとえば、三菱UFJ信託銀行(写真)は10月から、国内で引っ越しを伴う転勤をする従業員に50万円を支給する制度を新たに設けました。同社広報は「全国に支店があり、金融機関は不正防止の観点からも、一定のジョブローテーション(定期的な人事異動)が必要」(広報)といいます。しかし転勤で家計負担の大きい単身赴任を強いられる社員も増えていることから、手当の増額を決めたそうです。同じく全国に支店のある三菱UFJ銀行は2025年度から転勤した行員を対象に月3万円の手当を新たに設け、みずほフィナンシャルグループも2024年4月から転勤時に支給する一時金を2~3倍に増やすとのことです。全国に展開している金融機関は上記の理由で転勤がごく一般的ですが、社員が同意しない転勤や転居をなくす方針を打ち出している企業もあります。

 一方で、NTT富士通など、テレワークを利用して居住地を選べるようにしたり遠隔地での勤務を可能にしたりして、転勤や単身赴任を減らす施策を打ち出している企業もあります。勤務地を限定した採用を行っている企業もありますが、普通の社員に比べて昇進に上限を設けたり給与体系が違ったりするケースもあるので、就活時には募集要件をよく確認してください。人材サービス大手のエン・ジャパンのアンケートでは、「コロナ禍で転勤への考え方に変化があった」と回答した人のうち、20代では「(転勤に」肯定的になった)と答えた人が過半数だったそうです。出歩く機会が減った分、転勤で違う地域に行けることを理由に挙げた人もいたとのことで、自分にとっての転勤のプラス面、マイナス面を考えてみるのもよいでしょう。

「転勤、いまのままでいい」100社中37社

 転勤は場所を変えて社員に成長機会を与え、企業が終身雇用制を維持してたくさんの社員を抱えられるようにするための制度という側面もあり、すぐになくなることはないでしょう。朝日新聞が2022年に主要100社を対象に行ったアンケートでは、転勤に配慮を求める社員が「増えている」「やや増えている」と答えた企業は計58社ありましたが、社員の転勤数は「現行通りでいい」という企業は37社で、減らすべきだと答えた企業は17社どまりでした。金融機関のように、業界や企業によっては転勤が必須に近いところもあります。「企業名 転勤」で検索するなどしてニュースをよくチェックし、自分の志望企業選びに役立ててください。
 ちなみに朝日新聞社は本社機能が東京や大阪など4カ所、取材拠点は北海道から沖縄まで、さらには世界各地も含めてたくさんあるため、特に記者職は異動がつきものです。これは全国展開している他の新聞社やNHKも同様です。

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