2022年10月14日

鉄道開業150年…業界の未来は本業以外にあり?【イチ押しニュース】

テーマ:経済

 日本で最初の鉄道が東京・新橋-横浜間で開業してから10月14日で150年を迎え、各地で記念イベントが開かれました。日本の鉄道の総営業距離は2万8000キロ近くに及び、駅の数は約9500、年間輸送人数は252億人(2019年度)、1日あたり6800万人が利用しています。日本は世界有数の「鉄道大国」と呼ばれ、私たちの暮らしになくてはならないインフラ産業です。JR、私鉄を合わせて全国に200社以上ある鉄道会社はコロナ禍で多くが赤字を記録していましたが、客足が戻るとともに業績が回復しつつあります。9月には西九州新幹線が開業。今後も北陸新幹線の延伸、JR東海リニア中央新幹線計画のほか、都会では新路線や延伸計画も進んでいます。一方で、過疎化が進む地方のローカル線を維持できるかは大きな課題です。鉄道会社は列車を運行するだけでなく、「駅ナカ」や駅周辺の商業施設、沿線の不動産開発など様々な事業も展開しています。鉄道業界の現状から未来を考えます。(編集長・木之本敬介)

(写真は、東京・新橋駅を出発する鉄道開業150年の記念列車=2022年10月14日)

大手18社が黒字に

 鉄道大手18社の2022年4~6月期の連結決算で、同じ期間で3年ぶりに全社が黒字となりました。2021年は8社が赤字だったので、コロナ禍の落ち込みをようやく脱したといえそうです。18社の運輸収入は2019年の同期の7割ほどですが、10月11日に始まった観光支援策「全国旅行支援」で、さらなる回復も見込めそうです。ただ、コロナ禍で定着したテレワークを続ける企業もあり、長期的には通勤客が以前のレベルに戻るかどうかはわかりません。

「羽田空港アクセス線」「なにわ筋線」

 そんな中でも、東京や神奈川、大阪など都市圏を中心に新たな鉄道の建設や延伸は続いています。関東では、相模鉄道東急電鉄をつなぐ「相鉄新横浜線・東急新横浜線(新横浜線)」が2023年3月、宇都宮市と栃木県芳賀町が進める次世代型路面電車「芳賀・宇都宮LRT」が8月に開業する予定。さらに、JR東日本が手がける羽田空港と東京都心を結ぶ「羽田空港アクセス線・東山手ルート」は2029年度の完成を目指しています。東京メトロは、有楽町線の豊洲―住吉と南北線の品川―白金高輪の延伸計画を進めており、2030年代半ばに開通予定です。

 大阪では、大阪メトロ中央線を延伸させた「北港テクノポート線」の南ルート(コスモスクエア-夢洲間)が2024年度に開業予定。大阪中心部を南北に貫く鉄道新線「なにわ筋線」も2031年の開業予定です。羽田空港アクセス線、なにわ筋線はインバウンド(訪日外国人客)増加による空港へのアクセス向上が目的です。

リニアで品川-大阪67分

 今後、日本の交通網に大きな影響を及ぼしそうなのが、リニア中央新幹線です。東京―大阪は現在、東海道新幹線で最短2時間21分ですが、リニアが開業すると品川から大阪まで67分で着きます。大阪、名古屋のほか、途中駅がつくられる山梨や長野からも都心に通いやすくなり、豊かな自然を求めて移住者が増えるかもしれません。JR東海は品川―名古屋を2027年以降に、名古屋―大阪を2037年以降に開業する目標を掲げていますが、静岡県内でのトンネル工事に県の同意が得られておらず、開業の遅れは避けられない見通しです。

(写真は、リニア中央新幹線の試験車両)

JR東は鉄道以外の売り上げ5割の方針

 いま大手各社が力を入れているのがターミナル駅周辺の開発です。東京・渋谷駅周辺は東急の独壇場ですが、新宿駅は各社が再開発を競っています。コロナ禍前には1日の利用者が350万人超と、ギネスブックにも載る新宿駅。東京都と新宿区が経済産業省の統計から算出した駅周辺の2014年の商品販売額は9000億円超でした。京王電鉄とJR東は、2028年度に地上37階建てビルを建てるなどの再開発を進め、小田急電鉄と東京メトロも2029年度に地上48階、高さ約260メートルの超高層ビルの建設を計画中です。

 鉄道業界は、コロナ禍で本業の売り上げが落ち込み、不動産や駅ビル、スーパーといった他の事業で稼ぐ傾向が強まっています。JR東は、社員4000人を鉄道事業から他の分野に再配置する予定で、鉄道事業とそれ以外の売り上げの比率を7対3から、5対5にする方針です。JR西日本もJR大阪駅北側の「うめきた」エリアで大規模な再開発を続けています。複合施設「グランフロント大阪」そばには2023年春、「うめきた(大阪)地下駅」が開業し、京都や大阪と関西空港方面とを結ぶ特急が停車する予定。神戸市のJR三ノ宮駅では新駅ビルの開発が進み、ホテルやオフィスなどが入る高さ約160メートルの駅ビルは2029年度の開業をめざしています。名古屋駅周辺でもリニア中央新幹線開通に向けた再開発が進められています。

(写真は、新宿駅に建設される超高層ビルのイメージ=小田急百貨店提供)

JR九州は不動産・ホテル業?

 JR九州は博多駅や熊本駅など主要都市にある駅ビルや隣接するホテルの開発を進めてきました。山手線や東海道線のような利用客が多い「強い鉄道」を持っていないことから、「鉄道に依存しないような事業を展開している」と担当者は話します。2022年3月期決算では、営業収益の約7割を不動産や流通などの「運輸サービス」以外の事業が占めました。内訳では「不動産・ホテル」が33%、「流通・外食」が13%でした。焼き肉店をグループ傘下に入れるなど外食事業にも力を入れています。

 ここまで読めば、これからの鉄道会社は「鉄道好き」だけで通用しないことが分かりますね。鉄道ファンで志望する人は、本業以外の事業についてよく調べておかないと厳しい結果になりかねません。一方で鉄道会社は視野に入っていなかったけれども、街づくりやホテル、観光、小売り、飲食などに興味がある人にとっては、この業界にこそやりたい仕事があるかもしれません。視野を広げて企業研究を深めてください。

(写真は、長崎駅を出発する西九州新幹線の一番列車「かもめ2号」=2022年9月23日、代表撮影)

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