2013年07月25日

電子書籍 安売りで普及進むか

テーマ:メディア

ニュースのポイント

 電子書籍の世界で、値引きや一部無料公開などの販売手法が広まっています。紙の本なら全国どこでも価格は同じ。どうして電子書籍ではこのような戦略が広がっているのでしょうか。出版やIT業界に興味のある人は必読です。

 今日取り上げるのは、2面の「電子書籍 安売り合戦/『ライバルは無料サイト』」です。
 記事の内容は――ネット通販大手の楽天が電子書籍30%オフの割引キャンペーンを始めた翌日、アマゾンジャパンも「30%ポイント還元」で対抗した。紙の本ではみられない値引き戦略ができるのは、出版社が小売価格を決められる「再販制度」が電子書籍には適用されないため。スマホやタブレット端末で読まれる電子書籍は、ネット上の無料コンテンツと顧客を奪い合う「フリーとの競争」を迫られているのも安売りの理由だ。ただ、値引き競争が紙の本にも波及すれば、売れ筋の本だけしか出版されなくなる懸念もある。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

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 値引き競争の背景には、電子書籍市場が出版界の期待ほど伸びていない事情があります。記事にもあるように、民間調査会社インプレスビジネスメディアによると、2012年度の市場規模は768億円で紙のわずか4%、専用端末の12年度出荷台数も47万台で当初予想の半分でした。米国では2010年の電子書籍の売上高は08年の1.8倍の34億ドル(約3400億円)になるなど、急速に普及しました。日本では、電子書籍化された本の数が米国の10分の1の20万点程度と少ないことが原因として指摘されています。また、朝日新聞が昨夏実施した全国世論調査(郵送)で、電子書籍を「読んでいる」と答えたのは5%。近い将来に「使ってみたい」30%、「使ってみたくない」は56%でした。電子書籍を読んでいない理由(複数回答)は、「紙の本のほうがよい」(48%)、「目が疲れる」(25%)、「使い方がわからない」(24%)、「端末が高い」(19%)。紙への愛着が深いようです。

 ただ、点数が増え、魅力のある本が安く読めるとなったら、電子書籍の普及が一気に進むかもしれません。電子書籍の登場は、15世紀のグーテンベルクによる「活版印刷術の発明」と同じくらいの衝撃がある、とみる人もいます。印刷や製本のための大きな機械がいらないため、紙の本に比べてコストを低く抑えられ、誰でもパソコンで作りネット上で売ることができます。電子書籍の普及で紙の本が減っていけば、本の生産や流通を受け持ってきた出版社や印刷会社、取次業者、書店には大きな打撃です。一方で、電子書籍端末をつくるメーカーや、ネット上の電子書店を運営する会社には大きなビジネスチャンスです。

 ネット通販の楽天は昨年、カナダの大手「コボ」を買収して電子書籍事業に参入。出版の角川グループや紀伊国屋書店が電子書店を経営したり、凸版印刷グループが端末をつくったり、いま出版業界の各社と、アマゾン、楽天など国内外のIT企業が入り乱れる形で激しく競っています。楽天の三木谷浩史社長は朝日新聞のインタビューで「現在の世界シェアはアマゾンが約50%、コボが約20%」と分析したうえで、「今後は業者の合従連衡が進み、2020年には世界で3~4社に集約される。そうなれば、楽天が国内で50%のシェアを得るのは自然なことだ」と答えています。「戦国時代」とも称される電子書籍から目が離せません。

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