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検察官の定年を引き上げる検察庁法改正案が大議論になっています。国会で野党が猛反発しているだけでなく、ふだんはあまり政治的な発言をしない芸能人が「#(ハッシュタグ)検察庁法改正案に抗議します」に続々投稿し、数百万ツイートを記録するなど異例の事態になっています。そもそも政府は何を改正しようとしていて、何が問題になっているのでしょう。これだけ大きな話題です。基本的なことは知っておきましょう。(編集長・木之本敬介)
(写真は、検察庁法改正案に抗議するため国会前に集まった人たち。主催者が2メートル以上の間隔を空けるよう呼びかけた=2020年5月13日、東京都千代田区)
(写真は、検察庁法改正案に抗議するため国会前に集まった人たち。主催者が2メートル以上の間隔を空けるよう呼びかけた=2020年5月13日、東京都千代田区)
ツイート続々
俳優やミュージシャンらのツイートの一部を紹介します。「もうこれ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい」(俳優の井浦新さん)、「ちゃんと国民に説明してから、順序に則(のっと)って時間をかけて決めませんか?」(俳優の城田優さん)、「コロナ禍の混乱の中、集中すべきは人の命。民主主義とはかけ離れた法案」(演出家の宮本亞門さん)。
ほかにも、音楽グループ「いきものがかり」の水野良樹さん、俳優の秋元才加さん、芸人の大久保佳代子さん、俳優の小泉今日子さん、元格闘家の高田延彦さん、歌手のCharaさん、モデルの水原希子さんらも自身や事務所のアカウントで投稿し疑義を示しました。「政治の話はいつもはしないけど、これは黙っておけない」という投稿もありました。
どんな改正?
改正案のポイントです。●検察官の定年を63歳から65歳に延ばす(検察庁トップの検事総長は65歳のまま)
●63歳になると次長検事、高検 検事長、地検 検事正ら幹部はポストを退く「役職定年制」を設ける
●ただし政府が「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めれば、特例でその職を続けられる
定年延長は時代の流れですし、野党も問題にはしていません。多くの人が反対しているのは「特例」の部分です。政府が必要だと判断すれば、検事総長をはじめとする幹部の定年を最長3年間延長できることになります。優秀な人に長く務めてもらえるようにできるのだからいいじゃないか、と思う人もいるでしょうが、ことはそう簡単ではありません。検察官は他の公務員とは違う特殊な役割をもっているからです。
リクルート事件では首相辞任
検察官は、法律違反の可能性がある出来事について、容疑者を裁判にかけるかどうか、起訴、不起訴を決める権限を独占的に持っています。ときどき政治家がかかわる事件がありますよね。1976年に発覚したロッキード事件で検察は田中角栄元首相を逮捕・起訴しましたし、政官界に広がったリクルート事件では1989年、竹下登首相が辞職するなど、政権を揺るがすこともあります。だから、検察官は政治からの独立性や中立性が求められ、国家公務員ではあるものの、身分や定年は国家公務員法とは別の検察庁法で定められています。もともと検事総長を任命するのは内閣ですが、歴代政権は疑念をもたれてはいけないと検察庁の意向を尊重して人事を行ってきました。ところが、安倍政権はそこに手を突っ込める仕組みをつくろうとしているわけです。政界の不正などの捜査ができなくなる恐れがあると心配されています。日本の政治は、立法(国会)、行政(内閣)、司法(裁判所)が互いにチェックし合う「三権分立」の仕組みです。検察庁は行政組織の一つで内閣の下にありますが、捜査や裁判を通じて司法に深く関わっています。このため、今回の改正は「三権分立と検察の中立性・独立性を損なう」と指摘されているのです。
(写真は、東京高検などが入る中央合同庁舎=東京・霞が関)
「火事場泥棒」との批判も
ことの発端は今年1月、安倍内閣が東京高検検事長の黒川弘務氏(63)=写真=の定年を閣議決定で半年延長したことです。黒川氏は「政権に近い」とされていて2月に63歳で定年退職となるはずでしたが、7月にも交代するといわれる検事総長の後任になることが可能になりました。今回の検察庁法改正案は、この定年延長を「後付けで正当化するもの」とも批判されています。黒川氏が検事総長にならなければ問題ない、ということではありません。「政権に都合のいい人を重用できる仕組み」を法律で定める改正だからです。安倍首相は「恣意的な人事はしない」と繰り返していますが、今後どんな首相がどんな判断をするかはわかりません。検察幹部の定年延長を認めるときの具体的な判断基準を定めるとも言っていますが、中身は「今はない」(武田良太・国家公務員制度担当相の国会答弁)状況です。
検察は極めて強い権限を持つ一方、証拠を改ざんするなど暴走したこともあるため、内閣の影響力が強まることを歓迎する声もあります。ただ、国民が新型コロナウイルスで大変なときに、反対の多い改正案を通そうとしていることに「火事場泥棒」との批判が強まっています。ふだん政治に関心がない人も、今後の行方に注目してください。
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