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米国のフェイスブック(FB)が、新たな通貨「リブラ」を発行する計画を発表しました。暗号資産(仮想通貨)の一種で、実現すれば銀行を介さずに世界中で個人間のお金をやりとりができるようになります。これまでの通貨の常識を変えるほどの画期的な仕組みで、いま世界はリブラをめぐって大騒ぎになっています。国際的な通貨システムや金融政策を揺るがしかねないと、各国政府が警戒感を強めているからです。どんな通貨になるかは流動的ですが、あらゆるビジネスに関わる話ですから、金融志望ではない人もひとごとではありませんよ。リブラの行方に注目してください。(編集長・木之本敬介)
(写真は、米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO)
(写真は、米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO)
何ができるの?
リブラが実現すると、こんなことができるようになります――。あなたはヨーロッパの地方都市でボランティアをしていますが、お金が足りなくなってしまいました。この街には、使える銀行の支店がありません。スマホを取り出し、FBのメッセージアプリ「メッセンジャー」で日本にいる親にリブラでの送金を頼みます。しばらくすると親からリブラが送られてきて、さっそく街中のコンビニでユーロに換金することができました。
海外送金はこれまで金融機関が一手に握ってきました。プラットフォーマーの一つであるFBが送金や決済に本格参入することで、世界の個人間のお金のやりとりが大きく変わる可能性があるのです。世界のFB利用者は27億人。新たな「リブラ経済圏」が生まれるかもしれません。発展途上国などには銀行口座を持たない貧困層が17億人いるといわれますが、こうした人たちもスマホさえあれば金融サービスを利用できるようになります。
ビットコインとの違いは?
暗号資産は、価値を持った電子データで、国内外の送金ほか、お店やネット上での支払いに使え、法定通貨の円やドルと交換できます。取引データに間違いがないかは、世界中の参加者がチェックできる「ブロックチェーン」という仕組みを用いて偽造を防ぎます。数年前から話題の「ビットコイン」という暗号資産は、大もうけしようとする人たちの投機の対象となって乱高下(らんこうげ)し、大損する人も出ました。ビットコインには運営者がいませんが、リブラは米カード大手のビザ、マスターカードなど約30の企業・団体が参加する「リブラ協会」が管理、運営します。価格を安定させる仕組みを設けて、極端な値動きを防ぎます。各国が警戒
こう書くとリブラは良いことずくめのようですが、最近になって米国の政府や議会、連邦準備制度理事会(FRB)のほか、先進各国から懸念の声が相次いでいます。18日の主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、リブラなどの暗号資産について「金融システムの安定や消費者保護のために、最も高い金融規制の基準を満たすべきだ」との認識で一致。「通貨主権や国際通貨システムの機能にも影響しかねない」との見解でも一致しました。リブラが既存の通貨に置き換わってしまうと、物価の安定や景気の調整のために中央銀行が金融政策を実施しても「効果なし」なんてことになりかねないからです。中でも米国は、ドルが基軸通貨として世界の貿易や金融取引で使われているだけに敏感です。トランプ大統領は「基軸通貨はただ一つ、米ドルだ」と、けん制しました。リブラを知ることこそ「生きた業界研究」
「誰にいくら送った」「どこで何を買った」といったデータは個人情報の根幹です。FBは大規模な個人情報流出が繰り返し問題になってきました。さらに、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロリストへの資金供与に使われたりする恐れも指摘されています。
FBは2020年上半期にリブラを発行する予定でしたが、こうした動きを受けてマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は24日の電話記者会見で「(リブラを)始める前に、規制当局のすべての懸念に対処する」と答えました。発行時期にはこだわらず、中身が多少変わっても何としても実現させる意向です。
リブラがつくられることになったのは、今の金融システムの使い勝手が悪いからです。海外送金などの手数料は高く、時間もかかります。G7では、リブラに関する議論を通じて、既存のシステムを改善する必要があるとの「反省」も共有しました。金融やIT系を志望する人は、リブラ誕生の背景を考え、今後のニュースをチェックしてください。今の金融システムの問題点や課題が見えてきます。これこそが「生きた業界研究」です。
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