ニュースのポイント
宇宙の成り立ちの謎に迫る夢の施設を日本に誘致するかどうかが議論になっています。史上最大の直線型加速器「国際リニアコライダー」(ILC)。建設費は8300億円に上る一方で、経済効果は30年間で45兆円との試算もあります。誘致には賛否両論あります。
今日取り上げるのは、読者の投稿欄・声(12面)から2本の投書です。
◆さいたま市の男性からの投書「ILCは閉塞感破る投資だ」の内容は――ILC設置を「コンクリートから頭脳へ」転換する機会とすべきだ。従来型の公共投資を繰り返しても、日本は閉塞感から抜け出せない。日本が世界の頭脳センターとなるための「頭脳投資」とすれば、国民の理解も得られるのでは。世界の頭脳が集結すれば、日本の学術や産業界の刺激になり、医療や工業に新技術ももたらされる。
◆岩手県の男性からの投書「ILCは夢の施設ではない」は――岩手ではILC誘致の大キャンペーンが行われているが、地域に夢をもたらすという宣伝に疑問を感じる。岩手県の広報によればILC運転には23万キロワットもの大電力が必要で、誘致は原発再稼働の呼び水ではと疑いたくなる。安全というが、ILC推進機関も関わる茨城県東海村の加速器実験施設は5月、放射能漏れの被曝(ひばく)事故を起こしている。巨大施設は地域社会や経済に合わず、悪影響の方が多いように思う。原子力の平和利用の幻想に踊った過去の過ちを繰り返してはならない。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
ILCの加速器の全長は世界最大の31キロメートル。直線のトンネルを掘って加速器を設置し、電子と、正の電気を帯びた陽電子を衝突させ、物質に質量を与えるとされる「ヒッグス粒子」などが飛び出すのを捉えます。詳しく調べると、宇宙がなぜ今の姿をしているのかという問いに迫ることができるそうです。巨額の建設費がかかるため欧米は誘致に消極的。国内では岩手・宮城両県にまたがる北上産地と、佐賀・福岡両県にまたがる脊振(せふり)山地が候補地に上がり、地元は誘致合戦を繰り広げています。誘致した国は建設費の4~5割を負担するのが国際的慣例ですが、負担割合はまだ決まっておらず、国は慎重姿勢をとっています。
声欄には、政府の方針への賛否などの意見表明、身近な出来事の報告、ちょっといい話など毎日7~8本の読者の投書が載っています。取り上げた2つの投書は、真っ向から対立する意見です。世の中の出来事には、学校のテストとは違って正解はありません。賛成、反対、中間の意見など、多様な意見があることこそ健全な社会です。こうした意見の積み上げが世論となり、政府の政策決定にも影響を及ぼします。
みなさんも、意見表明の「声」を読んで、その問題への賛否を考えてみてください。短い原稿なのでさっと読めるし、自分の意見を鍛えることができます。こうした訓練が考える力を養い、いずれ就活の面接やグループディスカッションで役に立ちますよ。
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