ニュースのポイント
日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の交渉が大枠で合意しました。年末をめどに交渉を終えて2019年に発効すると、世界の人口の1割弱、世界の経済の3割弱、世界の貿易額の4割弱を占める自由貿易圏が誕生します。そもそもEPAって何? 今なぜ合意に至ったの? どんな業界に恩恵があるの? 「基本のき」を解説します。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、1面の「日欧EPA 大枠合意/チーズ・自動車 関税下げ」、総合面(3面)の「日EU『自由貿易主導』/トランプ氏意識」、経済面(7面)の「『質高い仏ワイン楽しんで』/関税即時撤廃へ 生産者、日本市場に期待/協定先行・チリへの反転攻勢」(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。
(写真は、大枠合意を記念しEUの旗が描かれたEU色の青いだるまを持つ通商担当のマルムストローム欧州委員と岸田外相=ブリュッセル、欧州委員会提供)
EPA、FTA、TPP…
それぞれの国は、自国産業の保護や税収入を増やすため、他国からの輸入品にかける関税の税率を自由に決められる「
関税自主権」を持っています。ただ、各国が高い関税をかけると「
保護貿易」が広がって世界の経済は停滞してしまいます。
自由貿易体制のために多国間のルールを決める
世界貿易機関(WTO=World Trade Organization)がありますが、加盟している164カ国・地域の利害が対立し、なかなか決められずにいます。そこで最近は2国間や地域間で協定を結ぶケースが増えています。
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FTA(自由貿易協定、Free Trade Agreement) 二つ以上の国・地域の間で、関税を引き下げたり撤廃したりして貿易を自由化する協定。
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EPA(経済連携協定、Economic Partnership Agreement) 関税に加え、人の移動や投資、知的財産、労働など幅広い分野で共通のルールを作り、「
非関税障壁」も撤廃する、より幅広い協定。
環太平洋経済連携協定(TPP=Trans-Pacific Partnership)は、太平洋を囲む12カ国による多国間のEPA。2015年に合意しましたが、米国が自国第一を叫ぶトランプ大統領(写真)になって離脱しました。いま、米国抜きの11カ国の協定に変更するかどうか、議論が続いています。
日本はこれまでに、シンガポール、メキシコ、東南アジア諸国連合(ASEAN)、スイス、オーストラリアなど20カ国との間で16のEPAを結んでいます(TPP含む)。日中韓FTAなどが交渉中です。
なぜ今?
日欧のEPA交渉は2013年に始まりましたが、なかなか進んできませんでした。双方が自国産業保護のためにあまり譲歩しなかったからですが、日本がTPP交渉を最優先にしていた事情もあります。ところが、トランプ氏のTPP離脱宣言が一気に流れを変えました。保護貿易主義の動きに危機感を強めるとともに、自由貿易を主導する立場をアピールしたいという日欧の思惑が一致して交渉が一気に加速。双方が譲歩しました。
個別の事情もあります。安倍首相は閣僚の問題発言などで内閣支持率が下がる中、日欧EPAがまとまれば、経済優先の姿勢を示して成果をアピールできます。EU側も、英国のEU離脱に加えて、米国とめざしていた環大西洋貿易投資協定(TTIP)の交渉がトランプ政権誕生で頓挫し、日欧EPAの重要度が増しました。岸田文雄外相は合意後、「日本・EUの自由貿易の旗を守ろうとする思いを世界にアピールしたい」強調しました。
(写真は、日EU首脳会談などのためベルギー・ブリュッセルのメルスブルク空軍基地に到着した安倍首相と昭恵夫人=5日午後、代表撮影)
どの業界にチャンス?
日欧EPA交渉で焦点だった分野は
表のとおりで、日本からの輸出は自動車やテレビなどの家電製品、EUからの輸出はワイン、ナチュラルチーズなど農産品が中心です。いずれも、関税の撤廃や引き下げで合意しました。
EUの人口は5億人。人口減少に悩む日本の企業にとっては、巨大市場に入りやすくなるわけで大きなチャンスです。中でもこの合意をもっとも喜んでいるのは自動車業界でしょう。日本車は米国ではたくさん走っていますが、ヨーロッパではさほど売れていません。ドイツ車など地元に有力な自動車メーカーが多いこともありますが、10%の関税も理由の一つです。先にEUとのFTAが発効した韓国の自動車は2016年に関税がゼロになり、輸出を増やしました。この間、日本車の輸出は減っています。発効から7年後には、ようやく日本車も同じ条件で競争できることになります。
ほかにも、日本酒や日本茶の関税が撤廃されることになったため、日本食ブームを背景に輸出が増えそうです。欧州ワインの関税もなくなるので、食品輸入関連の商社や小売り業界もチャンスですね。自分の志望する業界への影響を考えてみてください。
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