ニュースのポイント
トランプ米大統領(写真)は、1日午後3時すぎ(日本時間2日午前4時すぎ)に地球温暖化対策の国際ルール「
パリ協定」からアメリカが離脱すると発表しました。2日朝刊では、発表直前の状況を伝えています。離脱すれば世界の中でのアメリカの孤立化が進むこと、アメリカ国内では環境問題を巡る分断があること、などが書かれています。アメリカの離脱の一方で、アメリカを上回る二酸化炭素(CO₂)排出国の中国は「協定を堅持する」と言明しています。環境問題のほか貿易問題についても先進国ではアメリカだけが自由貿易に否定的で、中国が自由貿易の重要性を訴えています。21世紀はアメリカと中国の「G2」の時代になると言われてきましたが、アメリカがほかの先進国と価値観を共有できない国になれば、中国が世界のリーダーになる可能性も出てきます。アメリカはそれでもいいと考えているのでしょうか。(朝日新聞教育コーディネーター・一色 清)
今日取り上げるのは、総合面(1面)の「中国首相『パリ協定堅持』/米政権、離脱巡り判断へ」と総合面(3面)の「温暖化対策 米孤立も/各国から懸念の声 国内世論は二分/パリ協定態度表明へ/企業からも残留要請」(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
国内の分断はいっそう深刻に
トランプ大統領は、選挙戦中「地球温暖化はでっちあげだ」と主張、パリ協定からの脱退を公約にしていました。背景には、米国の石油メジャーなどのエネルギー産業やエネルギーをたくさん使う重厚長大産業などの主張があります。つまり、こうした産業がコスト増によって苦しくなれば、トランプ大統領の支持層である古い産業の労働者たちの雇用が失われるという理屈です。一方で、アップルやフェイスブックなどのIT企業、テスラ・モーターズなどの電気自動車メーカー、モルガン・スタンレーなどの金融企業などは離脱に反対しています。
経済界の対立だけでなく、一般市民も環境に敏感な人たちは「離脱反対」、目先の経済第一と考える人は「離脱賛成」といった色分けがあるとみられます。トランプ大統領の離脱決定はアメリカ国内の分断を一層深刻なものにすると思われます。
(写真はトランプ政権の環境対策に抗議するデモ。20万人近くが温暖化対策の重要性を訴えた=2017年4月29日ワシントン)
価値観が違えば孤立する
世界におけるアメリカの孤立も深刻です。今のところ、アメリカに同調する声はありません。排出量が最も多い中国も、アメリカに次いで3番目に多いインドも協定を堅持すると言明しています。先進国や新興国が一致して地球環境の悪化を防ごうとしているところに、協定発足に汗を流したリーダー格のアメリカが抜けるのですから無責任のそしりは免れません。トランプ大統領は先日のイタリア・シチリア島タオルミナのG7サミットで貿易についても異論を主張しました。つまり、先進国共通の政策だった自由貿易の推進に対して、アメリカは保護主義的な主張をしたのです。「自由貿易を推進しよう」とか「地球環境を守ろう」というのは、先進国が共有している基本的な価値だと思っていたのですが、トランプ大統領の登場でアメリカだけはこの価値を共有しない国になったのです。
(写真はG7サミットで討議する各国首脳=2017年5月26日イタリア・タオルミナ)
どう転んでもいいことはなさそう
これから先のシナリオを想像すると、どう転んでもいい方向に行きそうにありません。アメリカが離脱することにより協定の効力が弱まったり、アメリカに同調する国が出たりすることが考えられます。そうなると、地球温暖化は止められず、人類は海面の上昇や猛烈な嵐の発生などの問題に直面する可能性が高くなります。アメリカが離脱しても残った国で地球温暖化の努力が続けられ、悪化をある程度ふせぐことができる場合も考えられます。しかし、その場合はアメリカの孤立は深刻になっていて、リーダー国としての力は弱まるでしょう。代わりに中国の力が強まり、中国の時代になるかもしれません。しかし、中国は人権や報道の自由といった価値観をほかの先進国と共有しておらず、今のままの中国が覇権国になるのは世界にとっていいこととは思えません。
リーダー国交代の入り口?
世界のリーダー国は、100~200年で交代しています。ごく大雑把に言えば、16世紀はスペインの時代、17世紀はオランダの時代、18~19世紀はイギリスの時代、20世紀から今まではアメリカの時代です。しかし、トランプ大統領を見ていると、リーダー国の座を自ら投げ出そうとしているかのようです。これはトランプ大統領の時代だけの一過性のものなのか、それともリーダー国が移り変わる入り口の出来事なのか、よくわかりません。後世のアメリカ人が、あの時トランプ大統領を選んだことを悔やむ日がくるのではないかと心配になります。
環境問題は企業の関心事
就活生は、世界を揺るがす大きな出来事もちゃんとフォローしておきましょう。特に環境問題は企業の関心事ですから、自分の考え方をしっかり持っておきましょう。そういう時に大事なのは、歴史的広がりと地理的広がりを大きくとらえることです。出来事を地球規模で考え、歴史的に位置づけてこれから起こることを予測するということです。心がけてみてください。
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