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従来型のサラリーマンにつきものの苦労といえば、毎朝の通勤ラッシュ、長時間労働、出張、そして転勤でしょうか。大手企業になると転勤先も全国規模、そのたびに引っ越さなければなりません。業界によっては3年おきぐらいに全国を転々とすることも。
最近では、そんな転勤ありきの働き方を見直し、新しい採用枠をつくる動きが目立っています。イオングループの中核企業で総合スーパーを運営するイオンリテール(千葉市)は、2018年4月入社の新卒社員から、勤務地を限定し転勤なしで働く「L(ローカル)区分」を新設することにしました。将来、自分がどの地域でどんなかたちで働き続けたいのか、考える機会にしてみてください。(朝日新聞あさがくナビ副編集長・山口 真矢子)
今日取り上げるのは、総合面(3面)の「イオン 転居なし勤務地限定枠/片道1.5時間圏内、地元志向に門戸」、経済面(7面)の「多様な働き方 採用にも/イオン新制度 追随の可能性も」「(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。(写真は、イオンモール幕張新都心の店内です)
「L(ローカル)区分」ってどんな働き方?
全国規模の会社で、新卒から「地域限定」を選べるのは比較的珍しいケースです。イオンリテールの「L(ローカル)区分」と呼ばれる社員は、自宅~片道1時間半で通える店舗が3店以上ある地域が対象です。具体的には、首都圏や関西圏、名古屋、仙台、広島などを想定しているそうです。ローカル区分で採用されると、その後店舗間で異動することはあっても、自宅から通える範囲なので引っ越す必要はありません。同社では①全国転勤を伴う「N(ナショナル)区分」、②支社のエリア内に限って転勤がある「R(リージョナル)区分」、③今回新設の「L区分」の三つの採用形態から、希望の枠を選べます(図参照)。新卒だけでなく、2万人強の正社員も三つの中から選べるよう、昨年8月に人事制度が変更されました。
地域限定で働くメリットは?
学生にとっては、住み慣れた地域を離れずにすみ、通勤も楽なので、安定して長く働き続けることができます。将来結婚して子育てをしたり、実家の親の介護をしたりする可能性も考えると、あちこち転勤しないですむメリットは大きいでしょう。一方、企業側は、地元の優秀な社員を若いうちから囲い込むことができます。特に地方都市では、地元の中堅企業どうしでの人材の奪い合いが激しく、どの企業も人材確保に悩んでいます。最近は地元志向の学生が増えているので、全国規模の大企業でも採用枠を変えて対応せざるを得ない時代になっています。
もともとある「地域限定」の正社員
すでに「地域限定」の社員枠をもうけている企業は、結構あります。たとえば、百貨店などの流通、大手金融業界などでは、「総合職」とは別に「エリア限定職」「エリア総合職」などと呼ばれる採用枠があります。法律的な基準はないため、雇用形態や仕事内容、待遇は企業によってさまざまですが、主に女性向けの採用枠です。女子学生の方は就活で応募する際に、「一般職」か「総合職」か、「エリア限定職」かで悩むこともあるか思います。以前は、転勤を希望せずワーク・ライフ・バランスを重視するなら「一般職」、どこでも転勤ありでバリバリ働きたいなら「総合職」という2通りのコースが主流だったのですが、近年はこの「エリア限定」という枠も増えてきたので、迷う人が多いと思います。
「正社員の多様化」で働き方改革
いま「正社員」の形は、どんどん多様化してきています。政府も、この動きを後押ししています。理由は、不安定な非正規雇用で働く人を正社員に移行させ、誰もが長く働き続けられる社会にするためです。厚生労働省は2016年1月に「正社員転換・待遇改善実現プラン」を発表し、「非正規の割合を5年で半分に減らす」という目標を掲げました。
時代の流れを受け、さまざまな企業で、非正規社員を新しい形の雇用に切り替えるケースが目立ってきています。明治安田生命では、2015年に「無期契約社員」という制度を作りました。1年更新の契約社員が一定水準の評価に達したら、ずっと働ける「無期契約」に切り替えます。また、パナソニックも、家電工場で働く有期雇用の工員を、定年まで働ける「地域限定社員」に切り替える制度を、昨年から始めました。
激動する時代に合わせ、多くの業界で雇用形態が多様化しそうです。自分に合う働き方を見つけてください。
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