ニュースのポイント
スマホでニュースを見る人が多いと思います。SNSでは、手間ひまかけて取材した大事なニュースも、友人がシェアした話題も同じように並びます。誰もが簡単に情報を入手して発信もできる時代だからこそですが、「フェイクニュース(偽ニュース)」も拡散します。スマホ、SNSでニュースを見るときに気をつけてほしいことがあります。今日は激変するメディア事情を考えます。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、
◆オピニオン面(13面)の「オピニオン&フォーラム・報道 これでいいのか」
◆同「ネット点描・SNSのエコーチェンバー/多様性欠く『友達』の輪」
◆特集面(15面)の「第6回メディアフォーラム・メディア不信の時代に」
(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。
(写真は、メディアフォーラム冒頭で問題提起をする池上彰さん)
フェイクニュースが選挙に影響
今日の朝刊には、メディアの現状や課題、問題を考える記事が並びました。キーワードの一つがフェイクニュースです。米国の大統領選の際、「ローマ法王がトランプ氏支持を表明、世界に衝撃」といった偽ニュースが拡散し、結果に影響したと言われています。その後、東欧のジョージア(グルジア)の学生が、広告費稼ぎのために偽ニュースサイトを立ち上げてせっせと書いていたことがわかりました。ほかにも、米国、フランスの大統領選で、ロシアから偽ニュースが流れたとも言われます。
権力が「フェイクニュース」利用
この「フェイクニュース」という言葉を、権力の立場で利用しているのがトランプ大統領(写真)です。自分に都合の悪い報道があると、「フェイクニュースだ」と切り捨ててメディアを攻撃します。その多くは大統領自身によるツイッターでの発信です。日本でも、大阪の学校法人森友学園による小学校用地取得問題の国会質疑で自民党議員が「森友事件の報道はフェイクニュースだ」と言いました。
報道機関の記者が時間をかけて取材したニュースを、まるで捏造(ねつぞう)された「偽情報」のように決めつけるのは、逃げですし、権力のおごりでもあります。「フェイクニュース」という言葉を聞いたら、どう使われているのかチェックしてください。
米国では6割がSNSでニュース見る
フェイクニュースが広がった最大の要因は、ツイッターやフェイスブック(FB)などSNSの普及です。オピニオン面に登場する東京大学大学院情報学環教授の林香里さん(写真)は、メディアの構造変化を指摘します。かつてニュースは新聞を家族で順番に読んで知るものでしたが、今は仕事や勉強の合間にスマホで見るもの。米国では6割の人がSNSでニュースを読んでいるそうです。新聞は、一つひとつの記事に違う大きさの見出しが付いて、1面から社会面まで各面ごとにレイアウトされています。新聞社が重視する記事ほど大きな見出しで目立つように扱うため、大事なニュースが自然と目に入ります。
一方で、SNSについて林さんは「友だちがSNSで投稿した晩ご飯の話題も、政治のニュースも、同じ画面上で並列的に流れてくる。米国での研究では、友だちにうけそうなニュースはシェアされやすい半面、なじみのない硬いニュースは読まれなくなっている」と言います。
エコーチェンバーって?
「ネット点描」の記事では、「エコーチェンバー(共鳴室)」という新しい言葉を紹介しています。SNSは意見や価値観の近い人たちだけが集まって情報交換する空間を作り出し、自分に聞き心地の良い意見だけが繰り返しパソコンやスマホで表示されること――。偽ニュースもエコーチェンバーで広がり、何らかの政治的意図を持った情報を誰かが発信すると、同じ志向の人たちの中で共有されて広がるわけです。
ドイツで開かれた国際新聞編集者協会の世界大会(写真)では、ニュースをSNSで読む人が増えたことによる影響を心配する声が上がりました。「読者や視聴者が、それぞれのエコーチェンバーの中に閉じこもり、多様な見方や価値観が届かなくなっているのではないか」「FBで人は同じ傾向の人としか話をしないようになっている。民主主義のためになっていないのではないか」……。
ニュースを鵜呑みにしない
SNSでニュースを知る人はもっと増えるでしょう。どうしたらいいのか。メディアフォーラムで出たアドバイスを紹介します。
◆ジャーナリストの池上彰さん「(自分の判断が)実は間違っているかもしれない、というおびえのようなものを常にもっている。『自分は正しい』と思った瞬間、おしまいだ」
◆哲学者で津田塾大教授の萱野稔人さん(写真)「ストーリーを作る努力をしないと情報におぼれるだけ。ストーリーを作り、検証することを自覚してほしい」
◆評論家の荻上チキさん「ストーリーを作る前に保留という態度を身につけることが重要」「隣の人がうそをついているかもと意識しないと」
どんなニュースも鵜呑みにはしないこと。そして、誰が取材して書いたのかを確認することも大切です。
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