ニュースのポイント
中国は14日から北京で「一帯一路首脳会議」を開きます。「一帯一路(いったいいちろ)」という言葉を聞いたことはありますか。中国が、陸と海のシルクロードにかかわる地域を大きな経済圏に育てようという「シルクロード経済圏構想」の別名です。「一帯」が陸のシルクロード、「一路」が海のシルクロードを指しています。会議ではこの構想に参加する国に5年間で17兆円の投資を中国が約束する予定です。中国はこの構想をもとにアメリカと肩を並べる強国となり、「G2(米中二大国)時代」を作ろうとしています。これから数年、「一帯一路」は世界のキーワードになるかもしれません。覚えておきましょう。(朝日新聞教育コーディネーター・一色 清)
今日取り上げるのは、総合面(3面)の「シルクロード経済圏構想『一帯一路』17兆円投資へ/中国、参加国に5年間で」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
(図表は、中国の海と陸の「二つのシルクロード」構想=2015年4月21日朝日新聞朝刊掲載)
人口で6割以上、GDPで3割
一帯一路という場合の地域ですが、一帯は陸のシルクロードですから、中国から中央アジア諸国、中東、ロシア、ヨーロッパなどとなります。一路は海のシルクロードですから、中国から東南アジア、インド、アフリカ、中東などとなります。今のところ66カ国・地域とされていて、人口は世界の6割以上の約44億人、世界のGDPに占める割合は約3割とされています。
2014年のAPECで提唱
この構想は、2013年9月に習近平主席(写真)が中央アジア歴訪時に「シルクロード経済圏」を提起したのが始まりです。翌10月には東南アジア歴訪時に「21世紀海上シルクロード」を提起し、14年11月のAPEC首脳会議で「一帯一路」を提唱しました。この「一帯一路」は今年3月には国連安保理で支持の決議が採択されました。そして14日から首脳会議が開かれることになったわけです。
沿岸部との格差解消も狙い
一帯一路に参加すると、中国は道路、鉄道、港などへの投資を進め、可能な国とは
自由貿易協定(FTA)を結んで貿易を盛んにします。中国が中心となって昨年発足した
アジアインフラ投資銀行(AIIB)などが資金を用意します。中国の狙いは2つあります。1つは国内事情です。東側の沿岸部の開発は進んでいますが、西側の内陸部の開発はまだ遅れています。この構想を実現することによって内陸部を発展させて国内経済格差を縮めようとしています。もう1つは対外戦略です。中国はすでに中央アジアや東南アジアなどでのインフラ投資を進めていますが、さらに広い地域でさらに手厚い投資を進めることによって経済的な結びつきの強い経済圏を作ろうとしています。結果、アメリカと並ぶ世界の強国になろうとしているわけです。
(写真は、急ピッチで進む中国内陸部のインフラ整備の様子。北京につながる高速鉄道の橋脚を建設中=河北省張家口市)
アメリカと日本は複雑
この構想はアメリカや日本にとって複雑です。アジア、中東、アフリカなどの経済が活発になることはアメリカ製品や日本製品の市場拡大になります。中国だけではできないインフラ開発には参入できる可能性もあります。一方で、中国の影響力が増せば、世界のパワーバランスに変化が起きます。アメリカの力の衰えは日本にとって庇護者の衰えになるわけですから、マイナスがあるでしょう。また、バブルと思われている中国経済だけに、中国の世界経済に与える影響が大きくなれなるほど世界経済のリスクは大きくなるといえます。
「一帯一路をどう思いますか?」
こうしたことから、アメリカや日本はこの構想にまだ及び腰です。しかし、経済圏の一角に食い込むには早くから積極的に参画したほうがいいという意見もあります。最近のトランプ大統領と習近平主席との関係を見ると、意外に早くアメリカはこの構想に乗ってくるのではないかという見方もあります。国内需要は飽和している日本経済ですから、こうしたスケールの大きな構想は注目する必要があります。多くの企業でこの構想をウォッチしている人がいるでしょう。就活の面接で「一帯一路をどう思いますか?」なんて聞かれるかもしれません。答えられるようにしておきましょう。
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