2017年04月28日

実感なき景気「拡大」 「ほんとかよ」と考えて!

テーマ:経済

ニュースのポイント

 日本銀行は27日の金融政策決定会合で、景気の基調判断を引き上げて「緩やかな拡大に転じつつある」として、約9年ぶりに「拡大」の表現を盛り込みました。日銀は、景気が拡大している理由を海外経済が好調なためとしています。でも国内の実感としては、景気拡大をあまり感じません。確かに最近は一段と人手不足の声が強まり、アルバイトの時給も上がっています。ただ、消費は増えず、スーパーなどでは値下げが目立ちます。「9年ぶりに景気拡大」と言われても「ほんとかよ」という感じです。5年の任期があと1年足らずとなった黒田東彦(はるひこ)日銀総裁にとって、景気拡大から物価上昇へのシナリオは悲願です。そうしたことが願望となっているのではないかと疑うほど、実感のない「景気拡大」です。(朝日新聞教育コーディネーター・一色 清)

 今日取り上げるのは、1面の「日銀 海外頼み表現前進/景気判断 9年ぶり『拡大』」と経済面(9面)の「日銀、強気の景気見通し/総裁「物価は上昇基調」/小売り 相次ぐ値下げ(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
(写真は、値下げを強調するスーパーの売り場です)

金融政策を決めるもと

 景気を判断する指標はいろいろあります。内閣府は毎月、月例経済報告を発表して、総合的な判断を言葉で示しています。また内閣府は3か月ごとに国内総生産(GDP)を発表しています。これは各種統計からその期間に国内で生まれた付加価値の合計をはじき出して、成長率を出すものです。このほかにも、内閣府は景気の山谷を示す景気動向指数や、街の人の声をもとにした景気ウォッチャー調査なども発表しています。日銀も景気関係の発表をしています。有名なのは日銀短観というもので、企業のアンケート調査の結果をまとめたものです。今回の景気判断は、金融政策決定会合で金融政策を決めるうえのもとになる景気認識です。ほかにも、民間の景気判断など様々な指標があります。

民間よりはるかに強気

 今回の日銀の景気判断は、内閣府や民間の景気判断より強気になっています(グラフ参照)。例えば、月例経済報告は4月も5カ月連続で「緩やかな回復基調が続く」という表現で据え置いています。日銀の強気は物価上昇見通しをみると、もっとはっきりします。2016年度の消費者物価指数はマイナス0.3%だったのに、今回の景気判断では2017年度は1.4%、2018年度は1.7%、2019年度1.9%で、「2018年ごろには2%」という目標にぎりぎりセーフの水準としています。でも、民間エコノミスト40人の平均見通しは2018年度で1.0%です。実際に、小売りでは値下げが相次いでいます。イオンは、4月から約500商品を10%前後値下げしています。コンビニ各社も日用雑貨などを中心に値下げをしています。どうも、日銀だけが強気に「景気がよくなっていて、これから物価もかなり上がる」と言っているように感じます。

ピーターパンはなぜ飛べるか

 そこには、日銀の苦しい事情があると思います。2013年3月に就任した黒田総裁はすぐに「異次元の金融緩和」を実施しました。大量の国債金融商品を日銀が買って、お金を市中にあふれさせて、物価を上げようとした政策です。当初は「2年で2%」という目標をぶち上げましたが、4年たった今でも、物価は0%台前半をうろうろしています。政策の失敗の議論が出てきてもおかしくない時期になっているところに、来年3月の任期切れです。黒田総裁としては何としても、政策失敗の烙印を押されて交代させられることは避けたいでしょう。そのためにも、「景気は拡大していて物価は上がる」と言い続けないといけません。 
黒田総裁はかつて講演で「ピーターパンは飛べると思うから飛べるんだ」という趣旨のことを言ったことがあります。「景気はよくならない」とか「物価は上がらない」と人々が思うと、アベノミクスは墜落してしまうということです。
(写真は、日銀の黒田総裁です)

政策担当者の願望や忖度

 統計に基づいて書かれる日本語の表現や将来見通しは、気をつけないといけません。政策担当者の願望や忖度(そんたく)が入ることがあるからです。以前、政府の次年度の経済見通しを取材していて分かったことがあります。その成長率の数字は、統計数字を純粋に積み上げて推測したものではなく、国の予算案を編成するうえで必要な数字(つまり高めの成長率)を決めて、それに合わせて都合のいい数字を使うのです。
 「回復」や「拡大」など厳密な境界のない日本語での表現にも、政策担当者の願望が入りがちです。政府や日銀の経済の現状や見通しについては、そうしたところがあるということも知っておきましょう。そして、頭の片隅に「ほんとかよ」という言葉を用意して、自分の頭でほんとかどうかを考えてみるようにすると、かなりレベルの高いビジネスマンになれると思います。

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