2013年06月03日

「脱日本」 社長も本社も海外へ

テーマ:経済

ニュースのポイント

 グローバル化の進展で、工場だけでなく本社や社長オフィスなどの拠点を海外に移す企業が増えています。みなさんが目指す企業にも、こうした「超国家企業」に変貌するところが出てくるでしょう。そんな「グローバル経営」の最先端の事例を紹介します。国際競争に勝つために海外に出て行く企業戦略に加え、規制緩和や税制優遇で企業や起業家を誘致しようとする国家戦略も見えてきます。

 今日取り上げるのは、4面の連載企画「限界にっぽん第3部・超国家企業と雇用:7 海外、まず自分が出よう」です。
 記事の内容は――メガネで知られるHOYAの社長オフィスはシンガポールにある。社長が帰国するのは年10回程度で、毎月の会議や指示は海外やTV会議で行う。「生産現場も人も、顧客もライバル社も海外に拠点がある。本社ごと海外に出ることも考えたが、自分がまずは行こうと考えた」(社長)。世界で「最適地主義」をとる同社は、財務本社をオランダに置くほか、事業本部もメガネがタイ、ハードディスクがベトナム、眼内レンズがシンガポールと相次いで海外へ。各国の税制の差を利用して税の支払いを少なく抑える「タックス・マネジメント」(税の管理)も進める。
 シンガポールだけでも本社機能の一部や事業部門を移している日系企業は約80社。日本を拠点にする時代は終わった。シンガポールは低い法人税率や誘致策で、企業や金持ち、先端技術者を世界から集めて成長を維持し税収をあげる「ビジネス国家」戦略をとる。だが同国内では、物価上昇、貧富の差の拡大、外国人比率上昇に反発も吹き出している。

就活アドバイス

 今日の紙面には(デジタルにも)、経営トップや本社機能を海外に移した企業をまとめた図表が載っています。経営トップが海外に移った企業がHOYA、サンスター、ベネッセの3社、本社機能や事業の一部を移した企業が三井化学など8社、地域統括本社を移した企業がソニーなど8社。NECと三菱重工は、なんと世界5カ国に地域統括本社を展開していることがわかります。

 1980年代以降、貿易摩擦への対応や安い労働力を求めて工場を海外に移してきた日本の製造業は、グローバル化で進出を加速させてきました。しかしいまや、さらなる国際競争の激化で、海外進出は工場にとどまりません。記事の中で、ある現地法人の社長は「シェアを争う米大手化学会社や、顧客の自動車関連メーカーもみんなここにいる。現場に近いところで事業をするのが基本だ。日本にいては時間がかかりすぎる」と言っています。HOYAのように、生産、販売、研究開発、財務など、それぞれが一番やりやすいところでやる「最適地主義」を進めないと戦えないのです。

 もう一つ、大きな要因がタックス・マネジメントです。HOYAグループが2013年3月期に払った法人税の実効税率は日本の約35%よりずっと低い20.3%でした。HOYAの最高財務責任者は、欧米の株主は税の支払いも欧米企業並みにしないと投資してくれないと言い、「企業は環境に適応するしかない。税をどこに払うか、生産や雇用をどこでするか、企業は国を選べる時代だ」と語ります。人件費の低い国に生産会社をつくり、法人税率の低い国の地域統括会社に利益を落とす企業が増えるでしょう。このままでは日本企業の海外進出にともない、税収も海外に流れていきます。政府や与党に法人税率のさらなる引き下げ論がある背景には、こんな国際競争、世界情勢があるのです。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
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