ニュースのポイント
犯罪を計画したときに処罰する「共謀罪」が話題です。政府はテロ対策のためとして「
組織的犯罪処罰法」という法律を改正しようとしているのですが、野党は思想の自由などの基本的人権を制約しかねない「共謀罪」だと反対しています。これから国会で本格的な論戦が始まりますが、今国会最大の対決法案ですから、さらに報道が増えます。マスコミ受験者はしっかり語れるようにしなければなりません。私たち一般市民にも関わってくるかもしれない重要な改正案ですから、他の就活生も最低限のポイントは押さえておきましょう。やさしく解説します。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、1面トップの「『共謀罪』全面対決へ/与野党、会期末にらみ/法案閣議決定」です。ほかにも、以下の関連記事が載っています。
・1面「天声人語」
・総合面(2面)「時時刻刻・『テロ』強調 本質変わらず」
・同(7面)「教えて!『共謀罪』パート2⑤ メールやLINEでも摘発されるの?」
・オピニオン面(16面)「『共謀罪』法案 疑問尽きない化粧直し」
・同(17面)「インタビュー・『共謀罪』のある社会/神戸学院大学教授・内田博文さん」
・社会面(39面)「監視の恐怖さらに」
(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
どんな法案?
政府は21日、暴力団など組織的なグループの犯罪を取り締まる「組織的犯罪処罰法」の一部を改める法案を閣議で決め、国会に提出しました。組織的犯罪集団が犯罪を計画し、実行に向けた「準備行為」があったときに処罰する内容です。今の国会で成立をめざしています。
政府は「テロ対策」を強調していますが、野党や日本弁護士連合会(日弁連)は「捜査機関の解釈や裁量に委ねられ、一般市民が対象になる恐れがある」などと反対しています。
「共謀罪」って?
問題となっている「共謀罪」とは、ある犯罪を行うことを具体的に合意した段階で成立する犯罪のことです。実行しようと共謀すると、実際に行動を起こさなくても処罰されます。米国や英国などでは設けられていますが、日本の刑法では定められていません。政府は、2000年代に3回、「共謀罪」法案を国会に提出しましたが、「市民団体も対象になる」「心の中で思ったことで逮捕される」などの批判を浴びて、いずれも廃案となりました。
こうした経緯があるため政府は今回、法律の条文から「共謀」の言葉を消し、テロ対策を前面に出して「テロ等組織犯罪準備罪」という呼び名を使っています。適用対象を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と定め、処罰には合意だけでなく「準備行為」が必要としました。安倍晋三首相は「共謀罪と呼ぶのは全くの誤り」と強調しています。
しかし、「仲間同士で犯罪をしようと合意した」ことが罪に問われるのは同じです。政府は、正当な活動をしていた団体でも「性質が犯罪目的に変われば適用対象になる」と説明しつつ、その判断基準はあいまいで、捜査当局の裁量に委ねられる部分が大きいため、野党などは「実態は『共謀罪』と変わらない」と指摘。朝日新聞も「犯罪を計画段階で処罰する『共謀罪』の趣旨が盛り込まれている」として、「共謀罪」の表現を使っています。
なぜ今改正?
どうして今、改正案を出したのでしょう? 政府は、世界187の国と地域が結んでいる
国際組織犯罪防止条約(TOC条約)に加わるために改正が必要だと説明しています。とくに2020年の東京五輪・パラリンピックに向けてTOC条約を早く結びたい意向です。日本に潜むテロリストが国内でテロを計画しても逮捕できないケースがあると主張します。安倍首相は「条約を締結できなければ、東京オリンピック・パラリンピックを開けないと言っても過言ではない」と国会で答弁しました。
一方で、野党などは「日本の今の法律にも
予備罪などがあり、改正は必要ない」「今のままでも条約を締結できる」「テロ対策は別の法律で対応するべきだ」と主張しています。
かつて来た道?
今日の「天声人語」は、戦前の
治安維持法を取り上げ、当時の政府が「あいまいな解釈を許さぬ」「無辜(むこ)の民にまで及ぼすというごときことのないように十分研究考慮を致しました」と説明していたにもかかわらず、その後、思想や言論の自由の弾圧に利用された例をあげ、今の状況を重ねています。社会面には、これまでの法律でも警察に監視されてきた市民運動家などの不安や抗議の声を取り上げ、
日本ジャーナリスト会議(JCJ)の丸山重威さんの「2人で話し合ったり目配せしたりしただけで『共謀』となり、その判断は警察がする」との指摘を紹介しています。
これだけの基礎知識があれば、これからのニュースを見ても大きな流れが理解できます。テロ対策と思想の自由のバランスをどうとっていくのか。国会での審議に注目してください。
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