2017年03月15日

シャープが国内テレビ撤退へ 「ホンハイ流」の改革どう進む?

テーマ:経済

ニュースのポイント

 シャープの戴正呉(たい・せいご)社長が、2018年にも液晶テレビの国内生産から撤退する方針を明らかにしました。戴社長は台湾人で、元は台湾の鴻海(ホンハイ)グループの幹部です。2016年8月にシャープが鴻海の傘下に入って半年以上たち、社内では「鴻海流」の経営改革が一気に進められています。 シャープの三重県亀山工場で作られた大型テレビは特に高品質で知られ、「世界の亀山ブランド」として一世を風靡しましたが、工場の立ち位置も大きく変わりました。シャープで起きていることは、日本社会の縮図かもしれません。今後の動きに注目してください。(あさがくナビ副編集長・山口真矢子)

 今日取り上げるのは、総合面(1面)の「シャープ 国内テレビ生産終了へ/来年にも 戴社長が明言」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。

世界初「一貫生産」の拠点だった

 シャープの大型液晶テレビ「アクオス」を生産する三重県亀山工場は2004年に稼働、以前、女優吉永小百合さん出演のCMでロケ地になったこともあります。亀山ブランドは大人気で、お客さんが「亀山産を」と指名買いする現象まで起きました。シャープの町田勝彦社長(当時)は「2005年までに国内販売のテレビを全て液晶に置き換える」と宣言、経営資源の多くを液晶につぎ込みました。亀山工場の生産方式は、液晶パネルからテレビの最終組み立てまでを全て自前で行う「垂直統合型」。液晶テレビでは世界初の「一貫生産」の拠点でした。
 亀山の成功で勢いづいたシャープは、今度は2009年に大阪府堺市に4000億円をかけて、亀山の4倍の敷地の堺工場を稼働させます。他の部品メーカーを20社近く集め「企業の枠を超えた垂直統合の究極の形」をとりました。「国内で一貫生産し、とことん高品質にこだわる」という作戦でした。しかし、このこだわりと多額の設備投資が、逆にあだとなります。
(写真は、三重県亀山市にある亀山工場です)

潮目はリーマン・ショック

 堺工場が稼働する前年の2008年に、潮目が変わりました。リーマン・ショックです。世界的に消費が低迷し、急速な円高で輸出競争でも劣勢に立たされます。その上、韓国製や中国製などの安い液晶を使っても良質なテレビが作れる時代になり、海外で部品を組み立てる「水平分業」の方がコスト的に断然有利になってきました。消費者は、安くて中型のテレビを求めるようになってきたのに、シャープはこだわりを捨てきれず、流れを見誤ったのです。堺工場ではテレビの在庫が積み上がり、巨大赤字を引き起こすきっかけとなりました。液晶頼みの「一本足打法」は、一度態勢が崩れると、転落も早かったのです。シャープは、斬新なアイデアと商品開発力が長年の強みで、「目のつけどころがシャープでしょ」というCMもありましたが、残念ながらこの時は違いました。
(写真は、大阪府堺市にある堺工場です)

工場の町は今、どうなっている?

 メーカーの転落は、工場の姿も変えます。亀山工場では、最盛期には約3000人が働いていましたが、現在は約2000人。大型テレビ工場から様変わりし、現在はスマートホンやタブレット用の中小型液晶パネルが主力となっています。米アップルや韓国サムスン電子、中国の新興スマホメーカーも入り、事実上の下請け部品工場になっています。
 工場の町も様変わりました。駅前のタクシーは、かつてはシャープ関係者が引きも切らなかったそうですが、今はさっぱりで「最盛期の7割、いや半分ぐらい」という運転手もいます。退職者の転居に伴いアパートも空室が目立つようになり、お客が減って閉店するスナックもあるとか。工場近くのビジネスホテルは、かつてはシャープ関係者で満室だったのが、今では、中国人観光客たちが京都帰り伊勢行きの間に、大型バスで押し寄せるようになったそうです。

「鴻海流」の改革、今後どうなる?

 昨年8月、鴻海グループの幹部からシャープ社長になった戴氏は、目下、経営改革をスピーディーに進めているところです。まずは信頼を取り戻すために「有言実行」を徹底。立てた計画は必ず達成するよう、幹部や社員に訴えています。オーナー企業出身のため意思決定も早く、社長が必要だと思い立った5分後には、幹部を集めてテレビ会議を始めることもあるとか。
 人事制度も変える方針です。給与削減はなくして従業員のやる気を高める一方、頑張った人にしっかり報いる「信賞必罰」の仕組みを導入しようとしています。また、業務の外注化や工場の閉鎖などをして、コスト削減を進めています。国産テレビからの撤退も、コスト削減の一環でしょう。とはいえ、液晶テレビから撤退したわけではなく、事業としてはむしろ拡大の方針です。鴻海としては「2020年には液晶供給で世界一」を目指しているようです。シャープの技術力と鴻海の販売力を生かしたら、実現するかもしれません。
 今後も、シャープ再建の動きに注目してください。
(図は、2017年2月23日朝日新聞朝刊に掲載された鴻海流の改革チャートです)

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