ニュースのポイント
トランプ米大統領が日本との自動車貿易について「公平ではない」と批判しはじめました。日本で売る米国車には
関税がかかりませんから、事実誤認による言いがかりです。日本で米国車が売れないのは日本人には魅力がないか、自動車会社の努力が足りないからですし、日本の自動車メーカーは米国の工場で多くの米国人を雇用しています。誤解は解いてほしいものですが、世界一の大国の大統領の発言ですから無視してすむ話ではありません。日米貿易摩擦に発展するかもしれず、日本政府も日本企業も対応を迫られそうです。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、1面トップの「対日赤字 車に矛先/トランプ氏『不公平』協議示唆/TPP離脱 大統領令」と、総合面(2面)の「トランプの時代・強弁 日本車たたき/輸出半減 関税ゼロなのに/対日赤字是正訴え『まるで80年代』」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。
かつては「日米貿易戦争」
みなさんにとって「
貿易摩擦」は聞き慣れない言葉かもしれませんが、かつて大問題だった時代があります。日本が高度経済成長をとげた1960年代からバブル経済の1990年代にかけて、日本から米国への輸出が急増し、米国の対日貿易赤字が拡大。
日米貿易摩擦が激しくなり、米国は繊維、鉄鋼、半導体など、特定の産業分野をやり玉に挙げて日本側に輸出の自主規制などの要求を繰り返しました。とくに1980~90年代の日本車をめぐる摩擦は強烈で、「日米貿易戦争」とも呼ばれました。
今は米国で150万人雇用
その後、日本の自動車メーカーは米国に工場を建てて現地生産を進めてきました。冒頭の
図を見てください。日本から米国への自動車輸出はピークだった1986年の343万台から、2015年には160万台と半分以下に減りました。一方で、1985年に30万台に満たなかった米国での日本車生産台数は384万台と10倍以上に。米国内の日本の自動車関連産業の雇用者数は150万人にのぼります。日本メーカーは米国の経済や雇用に多大な貢献をしているわけです。
米国の貿易赤字に占める日本の割合も1991年の65%が2015年には9%に減り、中国(49%)、ドイツ(10%)に次ぐ3位です。
米国車の輸入は関税ゼロなのに…
にもかかわらず、トランプ大統領は23日、米国の企業経営者らとの面談で「日本では、我々の車の販売を難しくしているのに、数十万台の車が大きな船で米国に入ってくる」「公平ではなく、話し合わなければならない」と語り、対日貿易赤字を解消するために日本に何らかの是正を求める意向を示したのです。
トランプ氏は、日本市場での米国車のシェアが0.3%しかないのに対し、米国での日本車のシェアが40%近い現状も問題視しています。しかし、日本ではかつて6.4%だった米国車を輸入するときの関税を1978年に撤廃しました。今は逆に、米国が輸入する日本車に2.5%の関税をかけています。日本市場では輸入車に差別的な扱いはなく、実際、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンなどのドイツ車は人気があります。
問われる安倍首相の政治力
大統領が昔のままの認識を引きずったまま事実ではないこと言っているのですから、米国政府の専門家は正しい情報を上げて、正してほしいものです。でも、ことはそう簡単ではないかもしれません。今日の記事によると、トランプ政権の貿易政策を担当する経済ブレーンたちは、域内の原材料や部品をどのくらい使えば関税撤廃の対象にするかを決める「原産地規則」の見直しを狙っているようです。米国内の部品メーカーをもっと使うように迫るためです。トランプ氏も事実誤認を承知のうえで、日本に圧力をかけようとしているのかもしれません。
菅義偉(よしひで)官房長官はトランプ氏の発言について「事実誤認ですから。首脳会談をし、関係閣僚が説明していくことが大事」と語りました。いま調整中の日米首脳会談では、安倍晋三首相(写真)の政治的な手腕が問われることになります。
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