2016年11月30日

朴大統領辞任へ! 韓国の若者が怒っているわけ

テーマ:国際

ニュースのポイント

 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領(写真=東亜日報提供)が任期途中で辞任する意向を表明しました。朴氏は、長年の支援者や前秘書官らと共謀して、機密文書を流出させたり、財閥企業に財団の設立資金を出すよう強要したりしたとされています。支持率は4%に落ち込み、数十万人規模の辞任要求デモが毎週末、繰り広げられていました。お隣の国の一大事です。中高生や大学生も怒っています。ことの経緯をわかりやすく整理し、日本への影響を考えます。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、1面トップの「朴大統領 辞意を表明/時期『国会に委ねる』/野党は弾劾準備」、総合面(2面)の「時時刻刻/朴氏幕引き なお火種」、同(4面)の「日韓 暗雲/日中韓サミット・慰安婦合意…」です。ほかにも各面に関連記事が載っています(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)。

事件のあらましは?

 一連の疑惑については、ニュースやテレビの情報番組で盛んに報じられているので、なんとなくは知っていると思いますが、ここで整理します。

 事件の構図は上の図を見てください。検察に起訴されたのは、朴氏の支援者のチェ・スンシル被告と大統領府の前秘書官2人の計3人。事件の主な内容は以下の二つです。
①チェ被告と安被告は職権を乱用し、経済団体の会員企業53社に、文化やスポーツ関連の財団設立資金を出資するよう強要。文化関連の財団は朴氏が企画し、財閥首脳らに会って協力を要請していた。
②チョン被告は朴氏の指示に従って、公務上の秘密が含まれる文書47件をメールなどでチェ被告に流出させた。

 憲法の規定で、朴氏は大統領在職中は刑事事件で罪に問われることはありませんが、検察当局が朴氏を「共犯」として違法行為の疑いがあると認めた形です。

若者は何に怒っている?

 朴大統領は朴正熙(パクチョンヒ)元大統領の娘です。1974年、父を暗殺しようとした流れ弾で母が殺されたあと接近してきたチェ被告と親しくなり、1979年に朴正熙大統領が側近に暗殺された後もずっと支えられてきました。極度の人間不信といわれる朴氏にとって40年来の親友だといいます。朴氏が大統領になると、チェ容疑者は美容や服装の助言に加え、演説の草稿に手を入れ、機密文書も手にするようになりました。

 韓国の国民は、何の権限もない一私人であるチェ被告を国政に関与させ、大統領が操り人形のようになっていたことに怒っているのです。さらに、チェ被告の娘が名門女子大に不正入学したとの疑惑が、火に油を注ぎました。若者を中心に韓国の人々が最も怒るのが、競争が激しい大学入試と男子の徴兵制度にまつわる不正だと言われます。週末のデモに、家族連れや大学生、制服の高校生や中学生の姿も見られるのはこのためです。韓国の世論調査で、19~29歳の大統領支持率は、なんと0%に落ちました。
(写真は、朴大統領辞任を求めるソウルでのデモ。若者も目立つ)

これからどうなる?

 朴氏は29日、「大統領職の任期短縮を含めた進退問題を国会の決定に委ねる」と述べました。韓国大統領の任期は1期5年で再選できません。朴氏の任期は2018年2月までで、任期途中の辞任となれば1987年の民主化以降初めてです。憲法では、大統領が辞任すると60日以内に大統領選挙を行うと定められています。一方、弾劾決議で大統領を辞めさせようとしていた野党は、朴氏にすぐに辞任するよう求めるとともに、引き続き弾劾決議を目指す構えです。

 これからは、次期大統領選に向けた与野党の駆け引きも絡んできます。大統領選には、野党有力候補の文在寅(ムンジェイン)氏のほか、与党系の有力候補として潘基文(パンギムン)国連事務総長の名前が挙がっています。

日本への影響は?

 隣国の混乱は日本にも影響します。短期的には、12月19、20の両日に日本で開く予定の日中韓首脳会談に朴氏が出られない可能性が出てきました。大統領代行などが出席したとしても、朴政権がレームダック(死に体)のため、外交での成果は望めそうにありません。

 昨年末の慰安婦問題をめぐる日韓合意に関しては、ソウルの日本大使館近くにある「少女像」の移転が影響を受けそうです。韓国政府が「適切に解決されるよう努力する」と明記し、日本側は移転を念頭に、韓国の財団が実施する元慰安婦らへの現金支給事業に10億円を拠出した経緯があります。韓国の野党や元慰安婦の支援団体は合意自体に反発しているため、先行きが見えなくなりました。

 経済分野では、通貨下落などの緊急時にドルなどを融通し合う「通貨スワップ協定」再締結の議論を始めることで合意しましたが、停止しています。安全保障分野では、防衛情報共有の基礎となる「軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)」を11月23日に締結したばかりですが、北朝鮮への対応などで日米韓3カ国の連携が変わらず維持できるか、今後を心配する声が出ています。
(写真は昨年11月、ソウルで会談した安倍晋三首相と朴大統領 )

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