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「9年後、地方銀行の6割が赤字に転落する」。そんな試算を金融庁がまとめました。地方は人口が減って資金需要が減ります。加えて、マイナス金利によって利ざやが縮みます。そのために赤字になるというわけです。銀行がいくら経営努力をしても、人口や金融政策を動かすことはできません。
金融業界は、取り巻く環境に大きく左右されます。逆に言えば、環境がよければ、安定した業界でもあります。業界には、「周囲の環境に大きく影響を受ける業界」と、「環境にかかわらず、経営努力の効果が大きい業界」があります。あなたの志望する業界がどちらかを、一度考えてみましょう。
(朝日新聞社教育コーディネーター 一色清)
今日取り上げるのは、1面の「地銀6割 本業赤字予測/2025年 金融庁試算」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
なぜ地方銀行は大変なのか?
地銀赤字予測の理由は三つあります。ひとつは、人口の減少です。地方では現在、都会よりも早いペースで人口が減っています。「少子化」に加え、「都会への流出」があるからです。人口が減ると、普通は経済もその分縮小します。つまり、会社や個人が、あまり銀行からお金を借りてくれなくなるのです。
二つ目は、日本銀行のマイナス金利政策です。貸出金利は下がりますが、預金金利はすでにゼロ近くまで下がっていますから、ほとんど下がりません。つまり銀行のもうけである「利ざや」が縮みます。
三つ目は、メガバンクは海外に出て行って国内の不振をカバーする道が残されていますが、地銀はその道もとりにくいことです。こうやってもうけが減っていき、それをカバーすることができなければ、銀行経営にはコストががかりますから、どこかで赤字になるわけです。
何が起こるのか?
経営基盤を強くするべく、すでに地方銀行の再編が起こっています。今年に入って、地銀同士の統合などの再編が4件起こっていますし、来年の再編も1件公表されています。
今回の試算を金融庁が発表したのは、こうした再編を地銀に促す狙いがあります。金融業界は、バブル経済のツケの不良債権に苦しみ、1990年代後半にたくさんの銀行や保険会社が破綻したり、再編したりしました。こうした事態を未然に防ごうと懸命になっているのです。
地方銀行だけの問題か?
地銀が直面している問題は、自分たちではどうしようもないものです。このように、取り巻く環境に大きな影響を受ける業界は、いろいろあります。今、再編が進んでいる石油業界もそうですね。原料である原油の値段に左右されます。原油が安くなれば利ざやが小さくなり、高くなれば大きくなりますが、自分たちではどうしようもありません。需要も、自動車の売れ行きや燃費技術の向上によって左右されます。経営努力によってできることは限られます。
一方で、環境にそれほど左右されない業界もたくさんあります。たとえば、電機業界はどうでしょう。シャープが経営危機に苦しんでいるときに最高益を出している会社もありました。自動車業界はどうでしょう。三菱自動車は日産自動車の傘下に入りましたが、ほかの自動車メーカーは隆々としています。業績のいい会社と悪い会社が同じ業界にあるのは、環境が経営にそれほど影響を与えていない、ということになるのだと思います。
働くのはどちらがいい?
環境のウェートの大きい業界は、悪い環境になるとみんなダメですが、いい環境の時は左うちわです。おおむねいい環境の時が長いでしょうから、比較的落ち着いて仕事ができるでしょう。ただ、ずっと勤め続ける場合、どこかで大変な時期に遭遇するでしょう。それを乗り切れるかどうか、試練の時を覚悟しないといけません。
経営のウェートの大きい業界は、いつでも試練に直面する可能性があります。経営の舵取りを間違えれば、あっという間に転落します。ただ、自分たちの力で切り抜けられるという救いもあります。自分が志望する業界は、環境と経営のどちらのウェートが高いかを考えて、それぞれのリスクと自分の性格を頭に入れておきましょう。
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