ニュースのポイント
所得税が安くなる「配偶者控除」の仕組みが見直されそうです。国が「女性にもっと働いてもらいたいのに、このルールが邪魔をしている」と考えているからです。代わりに「夫婦控除」というルールが考えられています。税金の話は難しいですが、働くとすぐにかかわりますし、働き方や結婚、出産などにも大いに関係します。社会人の常識として、基礎知識は身につけておきましょう。
(朝日新聞社教育コーディネーター 一色清)
今日取り上げるのは、総合面(5面)の「配偶者控除見直し議論開始/政府税調、『夫婦控除』軸に」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
配偶者控除って何?
所得税と住民税は収入にかかる税金です。年収に税率をかけて金額が決まります。年収が高いほど税率が高くなります。累進税といわれるものです。「控除」は「差し引くこと」です。この場合は所得控除といって年収から差し引きます。配偶者控除は、所得税の負担を軽くする制度の一つで、年収103万円以下の妻(または夫)がいる世帯主の収入所得から38万円を差し引く仕組みです(図参照)。
収入が見かけ上少なくなれば、払う税金が減ります。たとえば、税率20%なら、7万6000円税金が少なくてすみます。妻(または夫)の年収が103万円を超えると、この配偶者控除は受けられません。
何が問題なの?
少子高齢化が進む日本では、働き手が不足しつつありますので、女性にもっと働いてもらおうとしています。しかし、配偶者控除があるため、働き方をセーブする人がたくさんいます。働き過ぎると、税金が増えてかえって損するからです。
「数万円くらいのことで?」と思う方もいるかもしれませんが、配偶者手当がある会社の多くは、手当てをもらえる条件が、配偶者控除にならって「年収103万円以下」になっています。この手当を失うこともあわせれば、大きな損になります。
廃止の損得は?
まだ廃止後の姿がはっきりしませんので、断定的なことは言えませんが、世帯年収の多い専業主婦世帯は大きな損、年収の少ない専業主婦世帯は小さな損、共働き世帯は得になるはずです。
夫婦控除は、配偶者控除より控除額が小さくなり、年収には上限をもうけることになりそうです。こうしたことから、上限以上の年収のある専業主婦世帯は配偶者控除がなくなるだけになりますので、その分損になります。上限以下の年収の専業主婦世帯は、配偶者控除と夫婦控除の額の差によって少し損をしそうです。共働き世帯は、新しく夫婦控除が生まれるので、その分税金が軽くなります。
気になる点は?
現状、年収103万円以下の方が、すべて働き方をセーブしているわけではありません。子どもを預けるところがなくて仕方なく専業主婦となっている方もいますし、介護など様々な事情で短時間のパートしかできない方もいます。
こうした方々は、働きたくても今の状態が精いっぱいなのですから、当人たちが損をするだけで、「フルで働いてもらおう」という政府の狙いは空回りになります。また、専業主婦やパート主婦は、地域社会を支えている存在でもあります。こうした方々が少なくなれば、PTAや町内会、子ども会の役員などはなり手がなくて維持できなくなるかもしれません。こうした心配が現実にならないように、配偶者控除を廃止するなら、並行して子育てや介護などの悩みを解消していく必要があるでしょう。
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