2016年07月20日

世界中のスマホの9割に搭載!?英アームってどんな会社

テーマ:経済

ニュースのポイント

 ソフトバンクグループが、世界的な半導体設計会社英アーム・ホールディングスを約240億ポンド(約3兆3000億円)で買収する、というビッグなニュースが飛び込んできました。最近では2014年、サントリーHDが米ビーム社を約1兆6800億円で買収して話題になりましたが、今回の出資額はその2倍。日本企業が海外企業を買う額としては過去最大です。でも、今回のニュースで初めてアームという社名を聞いた人がほとんどではないでしょうか。知られていないのには実は理由がありました。(副編集長・奥村 晶)

 今日取り上げるのは、総合面(3面)の「ソフトバンク、英半導体大手を買収/3.3兆円 スマホの次狙う/孫社長『5~10年後に理解される』」です。経済面(9面)にも関連記事「ソフトバンク・孫社長に聞く」があります(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)。

アームは最強の「BtoB」企業

 記事にもありますが、アームはスマートフォン(スマホ)用の半導体設計における世界シェアが90%を超える企業です。その割になぜ知名度が低いのか。アームは独自技術を盛り込んだ設計図を米アップルや韓国サムスン電子といった端末メーカー、米クアルコムなどの半導体メーカーに売っていますが、自社で製造するわけではないので、一般の消費者がメーカー名に触れる機会はほとんどありません。どうやって儲けているかというと、その設計図を使用した端末や製品などが1個売れるごとに数円から数十円のライセンス料を得ています。同じ設計図でも、それを採用するメーカーが増えていけば、追加の設計コストなしに利益を積み上げられますし、その製品が売れなかったとしても、在庫を抱えるリスクもありません。しかも、1台のスマホに同社の設計図を使った半導体が複数搭載されています。まさに最強の「BtoB」企業なのです。

孫社長の宿題実る?「百手先で大きな力」

 実際、アームの売上高、営業利益はスマホが世界的に普及しはじめる2010年ごろから急拡大しました。2015年12月期の売上高は9億6830万ポンド(約1350億円)で、営業利益率も52%と、高収益体質です。ソフトバンクの孫正義社長は10年前から同社の「魅力」に気付き、5年前に一度買収を本格的に検討したものの、当時は別の大型買収案件を優先して見送りました。積年の思いが実ったというところでしょうか。
 孫氏は、家電など、あらゆる機器に通信機能を持たせ、データをやりとりするIoT(モノのインターネット)がいずれ爆発的に伸びると見込み、そのとき、省電力で小さい半導体を設計できるアームの技術がひっぱりだこになると考えているのです。
 孫社長は「囲碁に例えると、いまある石のすぐ隣ばかりに打つのは素人。遠くにぽーんと打つのが五十手、百手先で大きな力を発揮する」と言います。

英政府が買収を後押ししたそのワケは?

 アームにとっても今回の買収は「渡りに船」でした。成長を続けるためには魅力的な設計図を作り続けなければなりませんし、そのためには開発資金が必要です。超優良企業ですから、引く手あまたかと思いますが、これだけシェアが大きいと、直接的に相乗効果があるような端末メーカーや半導体メーカーが買収してしまうと独占禁止法に触れてしまいます。また1社と密接な関係を持つことで、その同業他社への設計図の提供が難しくなるおそれもあります。ソフトバンクは業界が「やや遠い」からこそアームを買えたのです。英国のEU離脱もまた、ソフトバンクに有利に働きました。英政府は、この買収が、EU離脱前と同じように英国には投資先としての魅力があるのだ、ということをアピールする良い機会だととらえ、歓迎しています。英政府の後押しもあって、買収話がスムーズに進んだのです。

日本のBtoBも要チェック!

 昨日の「今日の朝刊」でも触れていますが、日本にも一般には有名ではなくても優良なBtoB企業、中堅・中小企業がたくさんあります。その多くがまだ選考を続けています。それぞれの業界におけるシェアという「強み」に注目して、BtoB企業に目を向けてみましょう。

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