2016年05月31日

オバマ@広島演説で考える「核なき世界」の理想と現実

テーマ:国際

ニュースのポイント

 オバマ米大統領が原爆を投下した国の現職大統領として初めて広島を訪問し、被爆地から「核なき世界」を改めて発信しました。歴史に残る名演説との評価もありますが、核兵器が世界からなくなる日がすぐに来るわけではありません。ぜひ一度、全文に目を通して、理想と現実を考えてみてください。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、総合面(3面)の「オバマ氏訪問 舞台裏/震える体 突然大統領がハグ/核のボタン 広島に持ち込む/オバマ氏訪問 舞台裏」です。
 記事の内容は――大統領が話しかけると被爆者の森重昭さん(79)に伝えられたのは行事開始約10分前。森さんは「自分の言葉でお礼を伝えたい」とオバマ氏に話しかけようとしたが、緊張で言葉に詰まってしまった。体が震え、涙がほおを伝った瞬間抱きしめられた(写真)。米国側は、「謝罪」ととらえられないよう米国史と関わる被爆者を中心に招待。日本側は平和記念資料館(原爆資料館)見学にこだわったが、広島滞在予定時間は1時間足らずのため、主要な展示物を入り口に集めて約10分間見学する方式に。演説はオバマ氏側近が推敲(すいこう)を重ね、おびただしい犠牲に触れつつ「米国が投下した」といった主語を明確にする表現は使わなかった。一方でオバマ氏は、核攻撃の承認に使う機密装置を持った軍人も同行させ、広島に初めて「核のボタン」を持ち込んだ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 テレビ中継でオバマ演説を聴きながら、高校の英語の授業で米国のキング牧師の「I Have a Dream」演説を初めて聴いたときのことを思い出しました。人種差別を禁止する公民権法制定につながった歴史的な名演説です。オバマ氏の広島演説も同じように語り継がれるでしょうか。日米をはじめとした世界の国々のこれからの取り組みにかかっています。

 広島で「核なき世界」を訴えたオバマ氏の傍らには「核のボタン」がありました。核廃絶の理想と、核兵器に依存する世界の現実を象徴しています。2009年のプラハ演説で「核なき世界」を提唱しノーベル平和賞を受賞したオバマ氏ですが、ウクライナ問題などでロシアと対立し、8年間の在任中、核軍縮はあまり進みませんでした。オバマ政権は、今後30年間で1兆ドル(約110兆円)を投入して新型の核巡航ミサイルなど核兵器の近代化計画を進めます。対するロシアのプーチン大統領は核兵器削減に消極的ですし、北朝鮮は核実験を繰り返し、中国、インド、パキスタンは核戦力を強化しているといわれています。世界には推定1万5000発超の核兵器があります。

 唯一の被爆国である日本は、日米安全保障条約によって米国の「核の傘」の下にあります。もし日本を核攻撃すれば、安保条約を結んでいる米国が報復するため、どの国も日本への攻撃を思いとどまる――これが「核抑止力」「核の傘」の考え方です。このため日本は核兵器使用を国際法違反とする国連総会の決議に反対し、5月の国連核軍縮作業部会でもメキシコなどの非核保有国グループが提案した核兵器禁止条約交渉に賛同しませんでした。オバマ氏の後任を決める米大統領選で共和党候補になるのが確実なトランプ氏は、日本や韓国の核保有を容認すると言っています。理想と現実のジレンマにある日米の政府が提案するのは、核抑止力の役割を認めながら段階的に核廃絶をめざす「現実的手法」です。

 オバマ氏も演説で「私の生きている間に、この目標は実現できないかもしれない」と語りました。「核なき世界」はまだ見えない未来です。それでも今回の訪問は強いメッセージを世界に発しました。もっともっと多くのリーダーを含めた世界の人々が広島を訪れ、核兵器の非人道性を感じとってもらう糸口にはなるはずです。理想へ向けた大きな一歩になるかもしれません。

 以下はオバマ演説の中で、私が特に感じ入り心にとどめたいと思ったフレーズです。みなさんも、全文の中から心に響く言葉を探してみてください。

 「科学技術の進歩は、人間社会に同等の進歩が伴わなければ、人類を破滅させる可能性があります。原子の分裂を可能にした科学の革命には、道徳上の革命も求められます。だからこそ、私たちはこの場所を訪れるのです」
 「1945年8月6日の朝の記憶を薄れさせてはなりません。その記憶は、私たちが自己満足と戦うことを可能にします。それは私たちの道徳的な想像力を刺激し、変化を可能にします」
 「広島と長崎は『核戦争の夜明け』ではなく、私たちの道徳的な目覚めの始まりとして記憶されるでしょう」

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