ニュースのポイント
2人以上の世帯、いわゆる「ファミリー世帯」の貯蓄が、2015年の総務省「家計調査報告」で過去最高を更新しました。1世帯、平均1805万円も貯金があると聞いて、「結構多いんだなあ?」と感じた人もいるのではないでしょうか。今朝、就活まっただ中の男子学生と会う機会があったのですが、彼も、今日の朝刊では、このニュースが気になった、違和感があったと話していました。統計の数字は自分の身の回りの実感とかけ離れたものが出ることがときどきあります。そんなときは「違和感」を大事にして、統計の数字を深く掘り下げてみましょう。(副編集長・奥村 晶)
今日取り上げるのは、総合面(5面)「世帯貯蓄 平均1805万円/15年 過去最高を更新」です。
記事の内容は――総務省が17日発表した2015年の家計調査報告で、2人以上の世帯の平均貯蓄が1805万円で過去最高になったことがわかった。前年比0.4%増で、増加は3年連続だ。ただ3分の2の世帯は平均を下回る貯蓄しかなく、一部の富裕層の貯蓄額が全体を押し上げている。貯蓄は預貯金、生命保険、有価証券などの合計で、現金の「タンス預金」は含まない。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
そもそもこの総務省の家計調査がどのように実施されているか、みなさんは知っていますか。家計調査は全国から約9,000世帯を抽出した標本調査で、選ばれた各家庭で毎月家計簿をつけてもらい、その家庭の収入がどのくらいあり、どんなものをどのくらい買っているか、調べている調査です。今回、記事になった貯蓄や負債については、2人以上の世帯だけが対象で、四半期、年ごとに結果を公表しています。
貯蓄の金額の平均値が実感とかけ離れてしまうのには、理由があります。たとえば乱暴な計算ですが、対象が10人いて、9人の貯蓄額が10万円、1人だけ1億円を持っていたとしたらどうでしょう。その平均貯蓄額は「1009万円」になります。10万円しかない人が9割なのに、です。貯蓄の平均値は、一部のお金持ちが持っている金額によって、大きく左右されるのです。
一方、今回の記事には触れられていませんが、総務省統計局では、そういったブレをカバーするために、平均値だけでなく「中央値」というものも発表しています。中央値とは貯蓄の少ない世帯から多い世帯を順に並べたときに、ちょうど真ん中にくる世帯の貯蓄額のことです。
貯蓄保有世帯(貯蓄「0」世帯を除く)の中央値は1054万円です。そして、実は当然のことですが、貯蓄「0」と回答した世帯もあります。この貯蓄「0」世帯も含めた中央値だと997万円まで下がります。なんと平均の半分程度です。今回の調査でも、100万円間隔で世帯数を分けていくと、貯蓄現在高について100万未満と回答した世帯が11.1%で最も多くなっています。
2人以上の世帯の平均貯蓄額と聞いて、「単身世帯の平均貯蓄額は?」と興味を持った人もいるかもしれません。こちらは総務省の全国消費実態調査「単身世帯の家計収支及び貯蓄・負債に関する結果」で知ることができます。5年ごとに単身世帯4700世帯を抽出し、男女別に平均貯蓄額を出しています。2014年の場合、男性単身世帯の平均値が1118万円、中央値が480万円です。女性は平均値が1279万円、中央値は679万円です。貯蓄が200万円を下回る世帯が男性で30.1%、女性で24.4%といずれも5分の1以上を占めています。
ここまで調べると、記事の見出しの「平均1805万円」「過去最高」という印象がずいぶん変わったのではないでしょうか。「違和感」の正体がわかるとスッキリしますよね。
新聞記事に限りませんが、見出しなどを読んで、「へぇー意外だな」「なんだか自分の実感と違うぞ」と違和感を覚えたら、ぜひ、その記事を掘り下げてみてください。自分の直感が正しかった、ということもあれば、自分の視野が狭かっただけ、ということもあるでしょう。どちらも、考える力にプラスになります。
面接などで気になるニュースを聞かれたとき、ただ書いてある記事を読んで「驚いた」という話でなく、「興味を持って、さらに調べたら、こういうことがわかった」と話せれば、ライバルに差をつけられること間違いなしですよ。
※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから。