ニュースのポイント
あと半年余りで米大統領を退くオバマ氏が5月27日に広島を訪問する、というニュースが昨夜から大きな話題になっています。朝日をはじめ、読売、毎日、産経、日経各紙も、このニュースを今日の朝刊の1面トップで取り上げています。海外メディアでも速報が流れました。世界で唯一、原子爆弾を「使用」した国であるアメリカの現職大統領がその被爆地である広島を初めて訪れるというわかりやすいニュース性だけでなく、今回のニュースにはおさえておいてほしい背景がいろいろあります。就活には直接関係ないように見えるかもしれませんが、世界中がこれだけ注目しているニュースです。みなさんもぜひ興味を持ってください。(副編集長・奥村 晶)
今日取り上げるのは、1面の「オバマ氏 27日広島へ/米現職大統領 初の訪問/「核なき世界」発信」です。総合面(2面)「時時刻刻/非核実現へ広島から/オバマ氏、世論見極め決断/残り任期半年余 理想訴え」、同(3面)「悲願ついに 政府歓迎」なども関連記事。オピニオン面の社説(14面)や社会面(34・35面)でも取り上げていますので、時間があれば目を通しておいてください。
記事の内容は――オバマ米大統領は10日、5月下旬の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)出席のため訪日した際、広島を訪問する方針を決めた。日米両国政府が発表した。71年前の原爆投下以降、現職の米大統領が広島を訪れるのは初めて。米ホワイトハウスは「オバマ大統領が、安倍首相と一緒に歴史的な広島訪問をする」と明らかにした。安倍首相も首相官邸で「訪問を心から歓迎する」と述べた。オバマ大統領は、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に献花し、2009年の
プラハ演説で自らが提唱した「核なき世界」の理念を改めて広島から世界に発信する方針だ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
みなさんも修学旅行で広島を訪れたり、漫画「はだしのゲン」や映画、ドラマを見たりして、核(原子爆弾)の悲惨さについて学んでいると思います。日本は平和憲法のもと、「核は保有しない、製造もしない、持ち込まない」という非核三原則を政府の方針としています。核は非人道的な大量殺戮(さつりく)兵器になりうること、核兵器が二度と使われないことが人類共通の利益だということは、明らかだと思います。
しかし、世界を見渡すと、つい先日、36年ぶりの党大会を開催した北朝鮮は、核戦力を質・量的に強化し、自分の国を「東方の核大国として輝かせる」などとした大会決定書を採択していますし、米大統領選で共和党候補になる見通しのトランプ氏は日本や韓国の核保有を容認するような発言を繰り返しています。
みなさんはいま核兵器が世界中にどのくらいあるか知っていますか。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計(2015年1月現在)によると、世界中には約1万6000発もの核弾頭(ミサイルなどの先に取りつける核爆発装置)が存在しています。
米国とロシア(当時はソ連)がにらみあっていた1980年代の核弾頭数は6万発以上あったので、そこから見ればずいぶん減ってきてはいますが、ここ数年、削減のペースは鈍化しています。
・米国 7260
・ロシア 7500
・英国 215
・フランス 300
・中国 260
・インド 90~110
・パキスタン 100~120
・イスラエル 80
・北朝鮮 6~8
そのうち、「戦略核」と呼ばれる、遠くから攻撃できるようすでに配備されている核弾頭だけで4000以上あります。オバマ大統領は、「核なき世界」を訴えた後、ロシアとの核軍縮交渉に積極的に取り組んできました。2010年には、この戦略核をそれぞれ1550発以下に削減する新戦略兵器削減条約(新START)に両国が署名。さらに2013年には1000発程度ずつに削減する新たな方針も提案しましたが、強硬な姿勢を崩さないプーチン大統領が難色を示し、ロシアのクリミア併合で関係がさらに悪化、米ロの核軍縮交渉は宙に浮いた格好です。オバマ大統領が任期中に削減した核兵器はわずか700発にとどまります。
世界の核兵器の9割以上を保有する核大国の両国が核軍縮に動かないことには、「核なき世界」の実現は夢のまた夢です。
現職大統領の被爆地訪問は米国内で「謝罪的」と受け止められるとの懸念があり、過去3回の訪日では、オバマ大統領の広島訪問は実現しませんでした。そういった慎重論を押し切ってでも、広島訪問を決断したのは、在任中の「レガシー(政治的な遺産)」づくりという見方もありますが、停滞する核軍縮の動きを再び活性化する、という狙いもあると思います。
プラハ演説で、オバマ大統領は「今日、私は明白に、信念とともに、米国が核兵器のない平和で安全な世界を追求すると約束します」「米国は核なき世界に向けた確かな歩みを始めます」と高らかに宣言しました。任期中、核軍縮の難しさを痛感してきたであろうオバマ大統領が、どのような形で再び「核軍縮」の機運を高めることができるのか、力強いメッセージを期待したいと思います。
まずは核についての各国のスタンスや日本の立場をきちんと把握しておきましょう。グローバルに仕事をするつもりなら、欠かせない「常識」の一つですよ。
このテーマについては、4月12日の今日の朝刊「オバマさん、広島に来るの?来ないの?」でも経緯を書きました。読んでみてください。
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