ニュースのポイント
「パナマ文書」が世界を揺るがしています。英国のキャメロン首相、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席といった各国首脳関係者の名前がとりざたされているほか、アイスランドの首相は辞任に追い込まれました。「パナマ文書って、耳にはするけどよくわからない!」という人のために、何が起きているのか、何が問題なのか、やさしく読み解きます。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、総合面(2面)の「いちからわかる! 話題のパナマ文書ってどんな内容なの?」です。3面「タックスヘイブン 実態あらわ/パナマ文書に現旧首脳12人ら」のほか、国際面(11面)にも関連記事があります。
記事の内容は――中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」のたくさんの書類が外部にもれ、世界のジャーナリストが分析して、今月一斉に報じた。この事務所は、世界の大金持ちや大企業がタックスヘイブン(租税回避地)で会社をつくる手伝いをしていた。世界の首脳やその親戚もいたことがわかり、各国で騒ぎになっている。日本の約400の個人や会社もふくまれていた。タックスヘイブンの国や地域は、政府に払う税金がほとんどないかとても安く、そこに会社をつくり、本国のもうけを移せば、本国で払う税金を節約できる。会社の多くは工場や事務所がない「ペーパーカンパニー」だ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
簡単に言えば、世界の大金持ちが、自分の国ではたくさんの税金を払わなければならないため、タックスヘイブンにペーパーカンパニーをつくって税金を節約し、巨万の富を蓄えていたという話です。これまでもときどき報じられてきた話題ですが、今回は各国の首脳やその親戚が名を連ねていることがわかり大騒ぎになりました。政治家は税制を決めて国民に税金を納めさせる立場。どの国でも多くの納税者が税の負担に苦しんでいるのに、税を課す側の権力者やその周辺が自らの税の支払いを逃れて蓄財にふけっていたことが発覚し、多くの人々の怒りに火を付けました。世界中で貧富の格差の拡大が指摘されているときだけに、なおさら大きな問題になっているのです。
今日の記事などから、要点を整理します。
◆タックスヘイブンって?
Tax Havenは直訳すると「税の避難所」。Heaven(天国)ではない。法人税や所得税などの税率がゼロか極めて低い国や地域のことで、カリブ海の英領バージン諸島や同ケイマン諸島などが有名。資源や産業に乏しい小国や発展途上国が、他国の企業や個人の資産などを呼び込む目的で税を優遇している。ある国の企業がタックスヘイブンにペーパーカンパニーを設けて本国企業から資産を移転するなどすれば、本国での税の支払いを免れることができ、タックスヘイブンの地域は会社の登記費用などでもうかる。
タックスヘイブンで資産を保有したり、金融取引をしたりすること自体は違法ではない。ただ、法人情報がほとんど公開されないため、脱税や粉飾決算、資金洗浄(
マネーロンダリング)の温床との批判も強い。
◆パナマ文書の内容は?
パナマは北米大陸と南米大陸のつなぎ目にあり、パナマ運河で有名な国。この国でタックスヘイブンの会社設立などを手がける「モサック・フォンセカ」から流出した内部文書が「パナマ文書」。1977年から2015年にかけて作られた1150万点の電子メールや文書類で、データ量は2.6
テラバイトにのぼる。21万余の法人情報の中には、10カ国の現旧指導者12人、現旧指導者の親族ら61人の関係する会社も含まれる。芸能人やスポーツ選手の関係する会社も。日本の個人と企業も約400載っているが、朝日新聞の分析・取材では日本の政治家や公職者は見当たらなかった。
◆誰が調べてる?
「パナマ文書」暴露の経緯は上の図参照。匿名の人物から南ドイツ新聞の記者に渡されたあと、
調査報道NPO「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が分析し報道している。ICIJは、1989年に創設された非営利の報道機関「Center for Public Integrity」の国際報道部門で、米ワシントンに事務所がある。60カ国以上のジャーナリストが連携し、国際的な社会問題を取材、報道してきた。朝日新聞社は2012年に提携関係を結んだ。パナマ文書報道では日本の共同通信も参加している。ICIJは、文書にある21万余の法人や役員、株主の名前を5月初めにネット上で公開する予定。
◆大国の首脳は…
・英国のキャメロン首相=亡父が設立・運営した投資ファンドによって利益を得ていたことが発覚。野党から追及され、退陣要求デモが起きるなど2010年の政権発足以来最大の危機に。
・ロシアのプーチン大統領=タックスヘイブンなど国外の資産を本国に戻すよう呼びかけてきたが、親友のチェリストの名が文書に。プーチン氏は関係ないと主張している。
・中国の習近平国家主席=義兄らの名が文書にあったが、中国政府は一切コメントせず、関連のネット情報などを遮断している。習指導部は「反腐敗」を掲げ改革を断行してきただけに政権にダメージを与えかねない。
◆これからどうなる?
貧富の格差が広がる中、法務と税務の最新知識を使って税を逃れる富裕層と大企業への批判が強くなり、各国の税務当局同士で情報を共有する仕組みを整えつつある。米国のオバマ大統領は「金持ちと大企業だけが利用できる税の抜け穴がある。中流家庭はそれを使えず、その分の負担を強いられている」と述べ、抜け穴をふさぐ税制改革が必要との考えを示している。
先進国が中心の経済協力開発機構(
OECD)加盟国は昨年、企業の国際的な税逃れを防ぐための行動計画をまとめた。今日の国際面の記事「回避地で納税、公表義務化/EU案、パナマ文書受け企業対策」によると、欧州連合(EU)は課税逃れ対策を強化。EUの試算では、多国籍企業の税逃れで年間最大8兆円超の税収が失われているという。14日にワシントンで始まる主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも議論される見通し。5月の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)でも主な議題となる可能性がある。
とりあえず、これだけ知っていれば、パナマ文書が話題になっても話についていけるでしょう。就活では、こと細かに知っている必要はありませんが、大きな枠組みを押さえることが大事です。
さらに、金融志望者はタックスヘイブンの契約を仲介している欧州系の金融機関が目立つことを知っているとよいでしょうし、マスコミ志望者は今回の世界的な調査報道の意義について語れるようにしておくなど、志望業界に絡めた研究も必要です。詳しく知りたい人は、朝日新聞デジタルの特集「パナマ文書の衝撃」の記事を読んでみてください。
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