2016年04月12日

オバマさん、広島に来るの?来ないの?

テーマ:国際

ニュースのポイント

 主要7カ国(G7)広島外相会合にあわせて、各国の外相が広島市の平和記念公園を訪れました(写真)。核保有国である米英仏の現職外相が同公園を訪問したのは初めてのこと。中でも、原爆を投下した米国の閣僚の訪問は歴史的な出来事です。これを機に、5月のG7首脳会議(伊勢志摩サミット)で来日するオバマ米大統領が広島を訪れるかどうかが、がぜん注目されるようになりました。でも、そう簡単には実現しない事情もあるようです。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、1面の「広島訪問 オバマ氏本格検討/ケリー氏『重要さ伝える』」です。総合面(2面)の「時時刻刻・謝罪なし 日米の思惑」、オピニオン面(16面)の社説「G7広島会合/核廃絶への歩み加速を」、社会面(39面)「被爆地 思い交錯」も関連記事です。
 記事の内容は――広島を初訪問している米国のケリー国務長官は11日、G7外相会合後の記者会見で「すべての人が広島を訪れるべきだ」と語り、オバマ大統領が広島を訪問することに前向きな姿勢を示した。オバマ政権は5月のサミットに合わせたオバマ氏の広島訪問に向け本格的な検討に入っており、ケリー氏訪問後の米国内外の反応を見た上で最終判断する方針だ。ケリー氏は平和記念資料館(原爆資料館)の芳名録に「世界のすべての人が記念館の力強さを見て、感じるべきだ」と記載し、ツイッターで写真を公開。記者会見で「いつか米大統領もその『すべて』の一人となり、ここに来られることを願っている」と語った。週内にオバマ氏と会い「ここで見たこと、そしていつか(オバマ氏が)訪問することがいかに重要かを確実に伝える」とも強調した。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 オバマ大統領は広島訪問に強い関心を持っていると言われています。米国のメディアは、今回のケリー氏の広島訪問が、大統領が訪問するかどうかを最終判断する「テスト」になると報じています。事情や背景を整理します。

◆「核なき世界」とレガシー
 オバマ氏は、大統領1期目の2009年、「核なき世界」を提唱したプラハ演説をし、ノーベル平和賞を受賞しました。核兵器のない世界を目指すのはオバマ氏の政策の中心とも言われます。しかし、ロシアがクリミア半島を併合した2014年のウクライナ危機などで米ロ関係は悪化し、米ロの核兵器削減交渉は全く進んでいません。
 オバマ氏の任期は来年1月まで。5月のサミットは任期中最後の訪日になるとみられます。米大統領は退任前になると歴史的な実績を残す「レガシー(遺産)」づくりに熱心になると言われます。オバマ氏は最近、TPP(環太平洋経済連携協定環太平洋経済連携協定)合意、イランの核開発問題合意、キューバと54年ぶりの国交回復、現職大統領としては88年ぶりの訪問と、外交面でレガシーを積み重ねています。広島訪問も、「核なき世界」の重要性を訴えるレガシーに加えたい意向があるのは間違いなさそうです。

◆原爆投下の是非論と「謝罪」
 原爆によって広島、長崎で20万を超す人々の命が奪われました。日本人の心情としては許せない原爆投下ですが、米国内では「日本の降伏を早め、結果的に多くの人命を救った」として、正当化する世論が根強くあります。米ニューヨーク・タイムズ紙は今回「米国民の大多数が、原爆投下は日本を降伏させ、米国人を救うため必要だったと信じている。(原爆投下についての)謝罪を示唆する言動は、政治的に大きな問題になる恐れがある」と書きました。このため、ケリー氏も日米外相会談で「今回の訪問は過去についてではなく、現在や未来に対するものだ」と強調し、自らの訪問を日米の「和解」の象徴と位置づけました。米政府高官は「ケリー氏の広島訪問は謝罪のためかと言われれば、答えはノーだ」と語っています。

◆大統領選への影響
 秋に本選挙がある米国の大統領選でトランプ氏ら共和党候補は、オバマ外交を「弱腰」と批判しています。オバマ氏が広島を訪問した場合、さらに攻撃材料を与えて共和党候補を利するなど選挙戦に影響しかねないとの見方もあります。このため、オバマ氏サイドは慎重に検討しているのです。

◆日本政府の対応
 今回のケリー氏訪問は、米国に謝罪を求めるより、原爆投下国と核保有国の広島訪問を実現し、被爆の実態を知ってほしいという日本政府の狙いと、「謝罪」はしないという米国の思惑が一致して実現しました。さらに米大統領が被爆地で核廃絶のメッセージを発すれば、世界的に大きなインパクトを与えるでしょう。日本政府はオバマ氏の広島訪問を願いつつも、米側の事情を察して積極的には呼びかけない、という構えです。

 オバマ氏の広島訪問が実現するかどうか、これからさらに大きな話題になりそうです。みなさんの就活が佳境に入る時期と重なります。どこかで話題にのぼるかもしれません。ただそれ以前に、世界で唯一の被爆国である日本の国民として、人間として、この問題に関心をもち注目してほしいと思います。

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから

アーカイブ

テーマ別

月別