ニュースのポイント
今日の朝刊の1面には、まったく違う二つの世論調査の結果が載っています。一つは民主党と維新の党の合流に伴う新しい党名が世論調査の結果、「民進党」に決まったという記事、もう一つが内閣支持率などを聞くために、朝日新聞社が毎月定期的に実施している世論調査の記事です。「世論」とは「世間の大多数の人の意見」(三省堂大辞林)という意味もあり、賛否両論が分かれるテーマについて「世論を二分する」などと表現します。そもそも、みなさんは世論調査とアンケートの違い、正しく説明できますか?(副編集長・奥村 晶)
今日取り上げるのは、総合面(1面)の「民主+維新=民進党/世論調査で決定 月末に合流」とその関連記事、総合面(4面)「民主、まさかの世論/名前残すより刷新 執行部「見誤った」/参院選で混乱、懸念も」です。
記事の内容は――民主党と維新の党は、新しい党の名前を「民進党」とする方針を決めた。2案を示して実施した世論調査で、民主側が推す「立憲民主党」より多くの支持を得た。27日の党大会から新しい名前で再出発する。民主、維新の双方が12、13日に実施した世論調査(各2000サンプル)の結果、いずれの調査でも、民進党を選んだ回答が多かった。民主側は党名変更直後の参院選で支持者の混乱を防ぐため、略称が「民主」となる名前にこだわっており、「世論調査で決めるべきではなかった」などと反発する声が出ている。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
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新聞やテレビ局といった報道機関では、毎月のように世論調査を行っています。世論調査とは、社会的な問題や政治的な争点、政策について、人々の意見や意識を明らかにするために行う統計的な調査です。中央省庁など行政機関でも実施することがあります。しかし、政党が党名を決めるために「世論調査」を実施するというのはなかなか珍しいケースではないでしょうか。
ちなみに、自民党(自由民主党)も1955年、自由党と日本民主党が合流したときに新党名を公募しています。公募の場合、事業の主体、このケースでは当時の政党幹部が気に入ったものを選べるので、「目論見が外れる」ということはありませんが、今回は、民主党幹部が「世論を見誤った」というほど、予想外の結果だったようです。しかし、そもそも「世論調査」は「こういう結果が出てほしい」と期待して実施するものではありません。たまたま同じ日の朝刊に、朝日新聞社の世論調査結果も載っていますので、改めて、世論調査とアンケートの違いをおさらいしてみましょう。
みなさんもSNSなどを通じて、ネットのアンケート調査などに回答したことがあるのではないでしょうか。また、その結果を宣伝材料に使っている広告などを目にしたこともあると思います。しかし、信頼できる調査結果かどうかは、その調査方法によります。アンケートとは多くの人に同じ質問を出して回答を求める調査法です。しかし、街頭アンケートなどでもわかるように、同じ質問をしても、場所や時間帯、聞く対象の性別、年齢など、回答に「偏り」が生じる要素がいっぱいあります。
世論調査も、新聞社によってその結果が違うなど、偏りを指摘されることはあります。ちなみに朝日新聞社の場合、毎月の定例の世論調査は、コンピューターで無作為に作った番号に電話をかける方式の電話調査で実施しています。調査の対象になるのは固定電話がある一般世帯に住む有権者なので、固定電話のない世帯は対象になりません。2000~4000人程度にアプローチして、1000~2000人ほどから回答を得るケースが多くなっています。それをもって、携帯電話しか持たない若者の意見を反映できていない、といった指摘もありますが、郵送で行う世論調査の結果をみると、「固定電話がない」と答えた人と「ある」と答えた人の内閣支持率や政党支持率の回答の傾向に大きな差がないことから、大きなゆがみは出ていないとされています。
一般のアンケートと世論調査との最も大きな違いは、母集団からの「サンプルの抽出」です。母集団の適切な縮図になるように選んだサンプルでないと、統計の意味がありません。今回の新党名については、民主、維新の両党がそれぞれ別の調査会社に依頼し、サンプルを抽出し、調査した結果だそうです。この調査に先立つ党名案の公募では、「民主党」と「立憲民主党」が1位、2位だったことから、「大半の民主幹部は、1996年の結党以来守ってきた党名がまだ支持を得ていると思い込んでいた」と記事にあります。人気投票などに近い公募での票数と、世論調査の結果がリンクしないことは、統計調査を理解している人間には当たり前のことです。
みなさんも企業でのインターンシップや選考の課題などで、顧客のニーズを吸いあげるといったテーマが出るかもしれません。そのとき、どういうデータを使うか。数字で示せるアンケート調査などは一見、説得力がありそうに見えますが、手法に問題があれば、無意味なものになります。必ず調査方法をしっかりチェックしてからデータを利用するようにしましょう。
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