2016年02月05日

シャープ、台湾の鴻海傘下に!? M&Aに国境なし(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:経済

ニュースのポイント

 経営再建中のシャープは、支援先として、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業を第一に考えていることを明らかにしました。支援先候補としては、鴻海以外に日本の政府系ファンドの産業革新機構があります。産業革新機構は、「技術情報が海外流出していいのか」として自分たちの案を選ぶように求めていましたが、その言葉は効いていないようです。それもそのはず、日本企業を含め今の企業買収は国境など関係ないものになっています。「技術情報の流出」は脅し文句にならない時代と言っていいでしょう。

 今日取り上げるのは、1面の「シャープ鴻海と優先交渉/台湾資本で再建めざす/機構とも交渉継続」です。総合面(2面)に「時時刻刻・支援7000億円 鴻海『本命』」、経済面(8面)に「シャープ再建の行方㊤ 鴻海、自前商品の開発渇望」が載っています。
 記事の内容は――経営再建のため支援先を探しているシャープは4日、台湾の鴻海精密工業と優先的に交渉することを決めた。鴻海傘下で再建をめざす方向だ。政府系ファンドの産業革新機構との交渉も続けるが、高橋興三社長は会見で「鴻海からの提案に最も人を割いて分析している」と述べた。今後1カ月をめどに結論を出す。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 現在、鴻海と産業革新機構がシャープを取り合っている格好になっています。決めるのはシャープです。記者会見での社長の話からは、鴻海に買収してもらう可能性が大きくなっている状況がうかがえます。

 この争奪戦について考えるポイントは二つあります。一つは、国内の資本と海外の資本のどちらがいいのか、という論点です。もう一つは、官に頼るのと民に頼るのとどちらがいいのか、という論点です。

 最初の国内か海外かについては、日本人としては国内資本に支援してもらったほうがいいと思うのは当然です。傷ついたとはいえシャープという技術力もブランド力もある企業が日本企業として再建されれば、その利益のほとんどは日本に落ちますし、技術力も日本にとどまります。ただ、だからシャープは産業革新機構の支援を受けるべきだということにはなりません。

 今のM&A(合併・買収)に国境はありません。2月3日には中国の国有企業が世界最大手のスイスの農薬メーカーを買収するという発表がありました。電機メーカーでは1月、中国の家電大手ハイアールが米ゼネラル・エレクトリック(GE)の家電部門を買収するという発表がありました。日本企業も海外企業を積極的に買収しています。2015年には、560件の買収があり、買収金額は11兆2585億円にもなっています。外国の資本だからいやで、自分の国の資本だからいいなどという選択肢はない時代になっているのです。世界は一つの市場になっているのです。シャープが、両者を同じ土俵で比較検討しているのは当然のことです。

 だから、二つ目の論点である官に頼るのか民に頼るのかのほうが、大事な論点だと思います。産業革新機構は株式会社ですが、出資金の大半は政府のお金で、経営陣にも元官僚が入っています。政府の意向を受けて、日本企業の再建に関わるための組織です。政府がついているため、破綻させることはありませんが、政府の都合のいいようにリストラされるのは間違いありません。シャープについても、液晶事業はシャープから切り離して「ジャパンディスプレイ」(JDI)と統合させようという案です。シャープは切り刻まれて、結局シャープの名前や経営陣や雇用などは消えてなくなる可能性があります。日本にとってはよくても、シャープにとってはよくないことになるかもしれません。

 鴻海だとリストラされない、とは言えません。ただ、国にとって何がいいのかなどという視点ではなく、あくまでシャープにとって、鴻海にとって何がいいのかだけで考えるはずです。グローバルな資本主義経済のもとでは、そのほうが素直な姿でしょう。シャープが鴻海を優先的に考えているのは、そうした経済の論理だけで考えたいからではないかと想像します。

 みなさんは、耳にたこができるほど「グローバル時代」という言葉を聞いていることと思います。シャープのような会社でも外国企業の傘下に入りそうになっていることをみると、少しは実感が湧くのではないでしょうか。企業経営において国境はほとんど意味を持たなくなった時代だということを頭に入れておきましょう。

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