2016年01月12日

東日本大震災の被災地で就職する

テーマ:就活

ニュースのポイント

 東日本大震災からまもなく5年になります。被災地の役に立とうと現地の企業を就職先として考える学生は、東北出身者だけでなく他の地域にも多くいるようです。被災地で働くという選択肢について考えます。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、総合面(3面)の「プロメテウスの罠(わな)・村人になる⑩集まらない働き手」です。福島県川内村の野菜栽培会社に就職した首都圏育ちの2人の女性、兼子(かねこ)まやさん(30)と西川珠美さん(26)の歩みをつづる連載記事です(「プロメテウスの罠」は福島原発事故をテーマに、行政、企業、住民などの動きを追う長期連載で、2013年度の新聞協会賞を受賞しました)。
 記事の内容は――昨年11月、川内村にある野菜栽培会社の工場を、県内外からの就職ツアーの一行22人が訪れた。原発事故で避難を強いられた地域に働き手を呼ぼうと、被災自治体などでつくる組織がツアーを募り、東京から無料バスも仕立てた。工場の野菜の値段は露地物より高く、取引先探しには苦労したが、得意先になった東京のレストランや居酒屋は離れない。商品としての質さえ保っていれば、必ずいつか売れまくるはずという自信が兼子にはある。
 原発事故を機に多くの世帯主が農林業の仕事を奪われた。「働く場がないから戻れない」という避難先の村民の声を受けて誕生した一つが野菜工場だった。東京の機械部品、大阪から建材……。帰村が始まると、村は他のメーカーの誘致にも成功したが、どこも慢性的な人手不足が続く。村に働き手の世代はほぼ戻らず、戻っても多くが高給の除染作業に流れてしまう。
(敬称略、東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
(写真は、人工の光でレタス類を栽培する川内村の野菜栽培工場)

就活アドバイス

 朝日新聞社が実施している就活支援セミナー「朝日学生キャリア塾」(現在2月講座、3月講座募集中)にかつて参加し、第1志望の会社に就職した男子学生が昨夏、入社4年目で退職し、東北で学習アプリを展開する会社に転職しました。盛岡市出身の彼は、キャリア塾に来ていたときから「被災地の役に立ちたい」と言い、復興ボランティアにも参加していたのですが、年が経つにつれてその思いを強くしました。今は「アプリを使って地方と都会の教育格差を改善する形で役に立ちたい」と頑張っています。

 被災地でのUターン就職をめざす学生だけではありません。今日の記事に登場する兼子さんは千葉大大学院の園芸学研究科で学んだことを生かそうと、東京都市大で放射線工学を学んだ西川さんは福島大職員から転じて今の会社に入社しました。きっかけはいろいろですが、何らかの形で被災地と接してそこで働こうと決意した人がいます。昨年8月の朝日新聞にはこんな記事が載りました。

◆岩手県釜石市の水産加工会社、小野食品(従業員約100人)に2015年春、東北以外の出身地から新人2人が就職した。東京都出身で北海道大の水産学部を卒業した女性(23)は、海や魚が好きで研究対象も魚の生態。サークルで郷土芸能も好きになり、祭りも水産業も盛んな岩手に興味を持っていた。大学4年の9月、東京で開かれた三陸就職フェアをきっかけに10月に小野食品から内定をもらった。もうひとりは滋賀県出身で北里大(神奈川県)卒の男性(23)。琵琶湖に慣れ親しんでいたため水に関わる仕事に興味があった。関東の小売業から内定を得ていたが、三陸就職フェアを訪れ、仕事の魅力と熱意に触れて就職を決心した。小野食品は震災で全工場を失ったが、再開後の売上高は震災前の1.5倍に伸び、新工場、商品の多角化、海外展開も計画中だ。釜石市商工労政課の主事は「釜石は復興も進み、町も企業も活性化している。地元企業の若手採用への思いは強く、移住者支援にも力を入れていきたい」と話す。(2015年8月21日、朝日新聞朝刊)

 被災地の役に立ちたいと考えている学生と人手不足に悩む現地の企業のマッチングをはかる就活サイトもあって、去年、今年と内定者数が増えています。最近、仕事選びで「人の役に立ちたい」「社会に貢献したい」という軸を大切にする学生が以前より多くなっているように思います。企業は基本的に何らかの形で世の中の役に立とうとしているわけですが、被災地で働くのは、より直接的でわかりやすい貢献と言えるかもしれません。東京や大阪、あるいはふるさとへのUターン以外に、こんな選択肢もありますよ。

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