2015年12月18日

米利上げ 就活も左右する?(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:国際

ニュースのポイント

 アメリカの利上げが大きなニュースになっています。海の向こうで0.25%ぼっち金利を上げることがどうしてこんなに騒がれるのか、と不思議に思っている人も多いのではないかと思います。そんなニュース知らなかった? そういう人もいるでしょう。ただ、この利上げは日本人の生活にもすごく関係することなのです。もちろん、みなさんの就活にも。どう関係するのか、おおざっぱでいいですから、理屈は知っておきましょう。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、1面の「米利上げ市場は好感/先導役、好景気維持が焦点」です。
 記事の内容は――米国の中央銀行にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)が16日、2008年から続けてきた「ゼロ金利政策」を終えた。9年半ぶりの利上げで、世界経済は新たな転換点を迎えた。景気の足踏みが続く日本や欧州、低迷する新興国を尻目に、米国が好景気を維持できるかが焦点となる。この利上げは、2008年の金融危機の震源地だった米国が、一足早く「非常時」から抜け出したことを意味する。「ゼロ金利政策」と市場に大量のお金を流す「量的緩和政策」は日本銀行が採用した政策だったが、危機後に米国も導入。一度はやめた日銀も形を変えて再開した。欧州も同様に景気刺激を続ける。日米欧の大規模緩和であふれた投資マネーは、新興国の高成長を支えてきた。だが、すでに利上げを見越してマネーは新興国から引きあげられ、米国に還流している。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 なぜ大きなニュースなのか? それはこの利上げが「世界のお金の流れの歴史的転換点だから」です。

 経済をコントロールすることは簡単ではありません。今、世界が見つけている方法は、中央銀行がお金の量を増やしたり減らしたりしてコントロールすることです。お金の量を増やすことを「金融緩和」といい、お金の量を減らすことを「金融引き締め」といいます。教科書的には金融を緩和すると、物価が上がって景気が良くなり、金融を引き締めると、物価が落ち着き景気が冷えます。2008年にあったリーマン・ショック(リーマン・ブラザースという米投資銀行が破綻したことをきっかけにした経済恐慌的状況)によって、景気を良くしないといけないと、世界は大金融緩和時代に入りました。アメリカは金利をほぼゼロにしたうえ、さらに売りに出ている債券を買うなどして市中に出回るお金の量自体を増やす政策をとりました。これを「量的緩和政策」といいます。ギリシャ危機などを経験した欧州も同じような政策をとりました。日本は実は、量的緩和政策を最も早くとった国です。いったんはやめるなどしましたが、2013年からのアベノミクスで世界でも最も大規模と言っていい金融緩和政策をとっています。

 こうした金融緩和政策が持っているリスクの一つは、緩和しきっているため、それでも景気が良くならなければもう打つ手がないことです。そして、いつまでも緩和を続けていると、お金があふれすぎて土地や株が異常に値上がりするバブルが発生します。また、より緩和度合いの大きい国の通貨が相対的に安くなり、物価が急激に上昇する「ハイパーインフレ」を招くことにもなります。ですから、政府や中央銀行は、景気が回復したらできるだけ早く金融引き締め(出口)に入りたいと考えるわけです。

 アメリカは、世界でいち早く景気が回復したと判断して、金利を上げて引き締め政策に転じました。ただ、引き締め政策にもリスクがあります。まず、世界に与える影響です。お金の流れは水と反対で、金利の「低いほうから高い方へ」流れます。アメリカだけが金利を上げ、欧州や日本はゼロやマイナスになっている状態では、高低差が広がるわけですから、お金はアメリカに流れがちになります。最近景気の悪い新興国からは、もっとそうなりそうです。となると、ドル(だけ)高になります。つまり他の通貨はドルに対して安くなります。程度によりますが、ドル高が激しく進むようなら、日本、欧州、新興国などで通貨安から輸入物価が上がり、政府がコントロールできないインフレが進みます。一部の輸出企業はいいかもしれませんが、内需に頼っている企業や個人は物価高に苦しむことになります。

 アメリカの経済がしぼんでしまうリスクもあります。景気回復が本物でなかった場合、進むドル高に苦しむ米国の輸出企業が足を引っ張り、あっという間に明から暗に転じる可能性もあります。アメリカがしぼめば、日本を始め世界の経済も暗に転じます。

 とにかく、今の世界の金融緩和は、大波乱のマグマを膨らませているようなものです。特に1000兆円以上の借金を抱えながら異次元という緩和をしている日本は、たまっているマグマの量もハンパではありません。何かのきっかけで、国債暴落、金利高騰、財政破綻、超円安、ハイパーインフレといったマグマ大爆発が起こっても不思議ではありません。そうなれば、国民生活はめちゃくちゃになります。一部のエコノミストは、日本で戦後あった「預金封鎖新円切り替え、財産課税」という3点セットが復活するだろうと予測しています。

 そうならないために、日本も早く出口に向かわなければなりません。でも、現実はアベノミクスの目標の2%の物価上昇率も名目3%以上の成長率も、はるかかなたにあります。出口を求めてさまよえど、出口の光さえ見えない状況です。なのに政府にも国民にも危機感がありません。

 就活でも、こうしたリスクを頭の片隅に入れておいたほうがいいと思います。日本銀行をはじめとした金融機関や積極的すぎる投資をしている企業などは、マグマが爆発したときに大打撃を受けるはずです。そんなことは起こらないと信じるか、起こるかもしれないと思うか、または起こったときは、どこも同じように大変だと考えるかは、あなた次第です。

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