2015年12月11日

「爆買い」で頭の体操! 経済を学ぼう(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:経済

ニュースのポイント

 昨日に引き続き、今年の流行語大賞の一つ「爆買い」について考えます。これは外国人旅行者、中でも中国人旅行者が大量の日本商品を買うことを形容した言葉です。外国人旅行者の日本での消費を硬い用語では、「インバウンド消費」ともいいます。先細りの内需に弱気になっていた日本の流通業界は、この「爆買い」を天の恵みとばかり、取り込もうと躍起になっています。東急不動産が銀座に大規模免税店をオープンするのもその一つです。他にも、全国こぞって「爆買い」への対応を急いでいます。ただ、中国経済の先行きには黄信号がともり、円高人民元安が進み始めています。そうなると、「爆買い」も今の勢いが続くとは限りません。「爆買い」の今後を考えることは、経済を学ぶいい頭の体操になると思います。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、経済面(13面)の「銀座に大規模免税店/東急不動産 来年3月に」です。
 記事の内容は――東急不動産は10日、来年3月31日に東京・銀座で大型商業施設「東急プラザ銀座」を開業すると発表した。消費税だけでなく関税や酒税なども免除する都内最大級の「空港型免税店」を構え、急増する訪日外国人旅行客の需要も取り込む。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

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 今、銀座は外国人旅行者であふれています。歩いていて聞こえてくるのは、中国語、中国語。大通りには、旅行者を乗せてきたバスが連なって待っています。両手に抱えきれないほどの商品を持った旅行者がバスに向かって歩いています。数年前の銀座とは、随分違う光景です。10日の朝日新聞夕刊の1面トップには「銀座で爆買い 路駐バスの列」という記事も載りました。

 それもそのはず、日本を訪れる外国人旅行客はすごい勢いで増えています。東日本大震災のあった2011年には622万人だったのが、今年は10月までで1631万人。2020年までに2000万人を目標にしていたのが、もう目前になっています。中でも中国(本土)からの客の伸びが著しく、今年は10月までで昨年の倍以上の428万人と、国別でもトップになっています。しかも、ほかの外国から来る旅行客より買い物に使うお金が多いのが特徴で、中国人旅行客を取り込むことに成功するかどうかが流通業界の大きなテーマになっています。

 東急プラザ銀座は、有楽町マリオン前にあった「モザイク銀座阪急」の跡地に建設中ですが、銀座6丁目の「松坂屋」跡地には、さらに大きなプロジェクトが進行中です。1.4ヘクタールの土地に地上13階、地下6階の巨大な商業施設が来年11月にオープンする予定です。1階にはバスの乗降場所をつくることからも分かるように、こちらも当然、爆買い客を狙っています。

 こうした爆買い客狙いの取り組みは、全国で盛んになっていますが、わたしは最近、不安を感じています。中国人がなぜこれだけ買い物をするか、というと、理由は二つ。中国人が豊かになったこと、そして日本での買い物が安くなったことです。中国人が豊かになったのはあらためて説明するまでもないでしょうから、日本の買い物が安くなったことを説明します。円と人民元の為替レートを見てみます。2012年1月には1人民元=12円でした。それが、どんどん人民元が強くなり(円が弱くなり)2015年6月には1人民元=20円になっています。つまり、中国の人は同じお金で、日本では7割近く値段の高いものが買えるようになったのです。こうなると、同じ日本製の電気製品でも、中国で買うより日本で買う方が安くなっているのです。日本製の紙おむつなどのトイレタリー製品が爆買いの対象になるのは、値段が安いからです。よく品質がいいから買うと言われますが、中国でも売っているのに、わざわざ日本で買うのは値段が安いからなのです。日本人が円高時代に、ヨーロッパでブランド品を買いあさっていたのも、あちらのほうが安かったからです。

 この日本のほうが安いというのは、未来永劫続くのでしょうか。中国は、人民元を国際通貨に仲間入りさせるために「国が不当に安くしている」という批判を受けないよう、人民元を高く誘導してきました。そして先日、国際通貨基金の基準通貨に採用され、念願の国際通貨の仲間入りを果たしました。一方で、中国の経済は輸出の不振もあって、低成長になっているため、ここにきて再び人民元安に動いています。現在は、1人民元=18円台になっています。11日の朝日新聞経済面(11面)「4年ぶりの元安水準」を参考にしてください。このまま、円高人民元安の基調が続く可能性は十分あります。経済の調子が悪くなると、国は通貨安を望むからです。そうなると、日本での日本商品の安さは薄らぎ、爆買いの衝動は抑えられてしまいます。

 日本の魅力は確かにありますので、外国人旅行客がもう伸びないというのは悲観的すぎるでしょう。ただ、2000万人を突破したあと、3000万人、4000万人と増えていくというシナリオは楽観的すぎると思います。為替が円高に振れると、あっという間にしぼむような数字であり、円高の可能性は十分あると考えないといけません。

 どうでしょうか。こう考えると、「爆買い」を狙った投資も「バスに乗り遅れるな」的な発想では失敗するかもしれません。みんなが群がったときにはもう遅い、ということは日常経験することです。証券業界の格言に「まだはもうなり」というのがあります。

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