ニュースのポイント
新聞やテレビなど旧来型のマスメディアはインターネットの普及で存在意義を問われています。これからの時代にマスメディアに求められる役割は何なのでしょう。マスコミ志望者はこれから身を投じようとする世界の未来について深く考えなければなりません。他の業界を志望するみなさんも、日々接するメディアのあり方を考えてみてください。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、オピニオン面(17面)の「メディアのこれから」です。
朝日新聞社が2013年秋に立ち上げた「未来への発想委員会」では、負担増、地方分権、政党政治、経済成長、リスク社会、メディアの6テーマについて議論してきました。2、3両日のオピニオン面では、同委員会の中堅・若手の有識者9人にゲスト2人を加えた計11人が議論したメディアについての意見をまとめて掲載しました。有識者の考えの要点をいくつか紹介します。これからのメディアを考えるヒントがたくさんあります。
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多くの方が触れたのが、インターネットの普及による大きな変化です。
◆萱野稔人(かやの・としひと)さん(津田塾大教授) 従来は情報元と情報の受け手に大きな距離があった。伝えるべき情報を発掘し、情報元に独占的にアクセスして取材し編集する新聞、テレビ、出版などの既存メディアの仕事に価値があった。ネットは情報元と受け手が直接やりとりできるため、こうした「媒介」の価値を奪った。ネットはメディアを否定するメディアで、既存メディアの価値の源泉を掘り崩している。
◆大竹文雄さん(大阪大教授) マスメディアは情報を仲介する仕事だ。情報を広く伝達する媒体としての独占力を利用して収益をあげ、情報を収集し公表してきたが、この独占力はネットの発達で急速に失われつつある。情報が無料になると、民主主義と市場経済のインフラであるメディアの情報収集力が脆弱(ぜいじゃく)になる。ネット時代に生き残るためにメディアは利益志向になり、公共性が失われていく。これは社会全体の問題だ。
そんな時代に、新聞やテレビはどうあるべきなのでしょう。
◆神里達博さん(千葉大教授) ネットの情報は全体性に乏しい傾向をもつ。新聞に今改めて求められるのは、バラバラに分断されたメッセージを意味ある知に統合する作業を傍らで支える役割だろう。
◆待鳥(まちどり)聡史さん(京都大教授) 日本のマスメディアは、現場に飛び込み、人々に密着するアプローチを得意とし、課題や不祥事を明らかにして大きな社会的役割を果たしてきた。しかし、ネットで個人が情報発信できるようになり意味は低下した。今後のマスメディアに求められるのは、データや専門家の知見を積極的に取り入れて大きな構造や潮流の変化を見いだし伝えることだろう。
◆牧原出(いずる)さん(東京大教授) 今、旧来のメディアに求められるのは、政治的な問題などで良質な判断の枠組みをわかりやすく示すことだ。人々の疑問に寄り添いつつ「こう考えてみては」などと提案する。ともに悩み、ときにエッジの利いた意見を出すことが新聞・テレビの持ち味になるだろう。政権支持や批判の立場から受け手をあおるスタイルはネットに任せればよい。
◆広井良典さん(千葉大教授) 情報媒体がネットに移っても、コンテンツ(報道内容)の作成や提供においては相変わらず新聞社等が大きな役割を担っている。霞が関の政策立案能力や情報収集力が低下する中で、新聞社等には政策の「シンクタンク」的機能の強化が求められる。
メディアのスタンスや中立、公正についての意見もありました。
◆荻上(おぎうえ)チキさん(シノドス編集長) 報道機関がスタンスを明確にするのは悪いことではない。新聞にもそれぞれのカラーがあり、決して「中立」的立場から報じてはいない。安全保障関連法に批判的スタンスに立つ朝日・毎日と、肯定的スタンスを持つ読売・産経とでは登場する有識者が違っていた。識者選びの段階からメディアの政治性は発揮される。何を取り上げ、誰に語らせるかにカラーが表れる。だから、複数のメディアから横断的に情報を取得することを推奨したい。メディアが流す情報には必ず「クセ」がある。それらをマッピングしていくようなメディア批評の役割が重要だ。
◆藻谷(もたに)浩介さん(日本総研主席研究員) 「メディアは立場を明確にして、意見を主張すべきだ」との言説があるがとんでもない。政治家も経済人もブロガーも、事実に反する思い込みを無自覚に発信している。必要なのは客観的な事実認識の共有化で、実現できるのは事実を調べ記述する社内規範を確立した一部の新聞メディアしかない。新聞は、客観的な記事と主観を述べる署名記事を峻別(しゅんべつ)することで、主客混同の風潮に抗してほしい。
ほかにも、メディアやジャーナリズムのあり方をめぐる様々な意見が載っています。記事原文に目を通すことをオススメします。
昨日の社会面(39ページ)には、報道や出版などの表現の「偏り」を批判したり、「公平」「中立」を求めたりする例が相次いでいることを伝え、識者の意見を紹介しています。下のリンクから読んでみてください。
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