ニュースのポイント
微生物のミドリムシからつくる燃料でジェット機を飛ばす計画が進んでいます。ベンチャー企業ユーグレナと全日本空輸(全日空=ANA)などの大企業が協力し、2020年に定期便を飛ばすのが目標です。ミドリムシなどの藻類は今、未来の食料、燃料として注目の的。ベンチャー志向の人にも、エアラインや商社、エネルギー業界などを志望する人にも関わるニュースです。(編集長・木之本敬介)
(写真は計画発表の記者会見)
今日取り上げるのは、経済面(9面)の「ミドリムシで空飛ぶ/ジェット燃料 2018年横浜で生産」です。
記事の内容は――ユーグレナや全日空などは1日、ミドリムシを原料にバイオジェット燃料をつくる工場を横浜市に建設すると発表した(写真下はプラントの完成イメージ=ユーグレナ提供)。2018年に稼働、20年に全日空の飛行機に使うことを目指す。工場を設計・建設する千代田化工建設や、ミドリムシ以外のバイオ燃料の原料を調達する伊藤忠エネクス、燃料を使うバスを開発するいすゞ自動車も計画に参加する。ユーグレナは、ミドリムシを増やし体内の油脂を燃料に使う研究や開発をしており、このバイオ燃料を通常のジェット燃料(ケロシン)に約10%混ぜて使う。全日空は羽田-大阪(伊丹)間のような近距離路線でバイオ燃料を使い、週1往復程度運航する。ミドリムシは成長したり増えたりするときに光合成をして二酸化炭素(CO₂)を吸収できるため、バイオ燃料の活用は環境への負荷を減らす。普及には通常のジェット燃料より高い製造コストの引き下げた課題だ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
藻類の開発は生物資源を使う
バイオマス事業の一つで、いま世界の企業が関心を寄せています。藻から取り出した油の成分が、バイオ燃料、健康食品、化粧品などさまざまな用途の原料になるからです。光合成で二酸化炭素を吸収するためエコでもあります。現在のバイオ燃料は大豆やトウモロコシ、サトウキビなどの穀物が主流。これらは食糧でもあるため、燃料としての需要が増えすぎると食糧不足や価格の高騰を招いてしまいますが、藻は食糧生産と競合しない点もポイントです。藻の種類は多く、産業向けの研究が盛んなものだけで10種ほど。英国の石油会社BP、米国のエクソンモービル、三井物産、デンソー、JX日鉱日石エネルギー……。内外の大企業が新たな資源として研究を進め、実用化しようと技術を競っています。
ユーグレナは「ミドリムシで地球を救う」という夢を追い続ける出雲充社長がつくったベンチャー企業です。社名はミドリムシの学名からとりました。藻は他の生物に食べられやすい微生物なので育てるのが難しいのですが、大量培養の技術を確立したのが同社の強み。これまでに伊藤忠商事、JX日鉱日石エネルギー、日立製作所、日本航空(日航=JAL)など多くの大企業の協力や支援を得て、開発を進めてきました。日航、全日空、日本貨物航空はすでにバイオ燃料を使った試験飛行に成功していますが、いよいよ商業飛行を本格的に目指すところまできたというのが今日のニュースです。
昨日も「COP21開幕!地球温暖化の『基本のき』」で書いた温暖化防止にも貢献します。国際線の航空機から出る温室効果ガスは、世界の総排出量の2%。航空需要は年4~5%増えると見込まれていて、排出量がさらに増えるのは確実です。国際民間航空機関(ICAO)は2010年に世界の国際線からの排出量の増加を2020年にストップさせる目標を決めていますが、その達成には化石燃料であるケロシンを中心としたジェット燃料からバイオ燃料への切り替えが欠かせません。今回の計画は、その第一歩とも言えます。
藻類からバイオ燃料をつくる取り組みはほかにもあります。IHIは「ボトリオコッカス」を鹿児島市の大規模施設で培養中。自動車部品大手のデンソーも雑菌に強く増殖が速い種「シュードコリシスチス」の培養実験を続けています。いずれもコスト削減が課題です。藻類から油1リットルを作るコストは現在250~300円程度。実用化の目安は100円以下とみられています。
こうした新規事業には多様な業種の企業が関わっています。ニュースから最新の情報を入手するのも大事な業界・企業研究。知っておくと志望動機も広がり、差をつけられますよ。
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