2015年11月27日

トヨタもサントリーも……同族経営の功罪を知ろう!(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:経済

ニュースのポイント

 埼玉県の学校法人「文理佐藤学園」は、学園長だった佐藤仁美氏が海外出張などで使った経費に不適切な支出があったと認め、その原因は同族経営にあったとしました。同族経営は、学校法人だけでなく一般企業にも多く、不祥事や内紛も少なくありません。ワンマンの創業者が年老い、能力も苦労も足りない2代目、3代目が常識外れの行動をしたり創業者に反発したりすることから問題が起きます。同族経営には意思決定が速いなどのメリットもありますが、潜むリスクも知っておいたほうがいいと思います。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、第3社会面(37面)の「経費乱用『同族経営に原因』」です。
 記事の内容は――埼玉県で西武文理学園文理小学校などを運営する学校法人「文理佐藤学園」は11月26日、佐藤仁美氏(44)が学園長や小学校長を務めた過去7年間に使った海外出張の経費など計1億1531万円のうち、ほぼ半分の5617万円が不適切な支出だったと発表した。9月に中間発表した不適切な支出額の約3倍に膨らんだ。文理佐藤学園によると、仁美氏は1482万円を弁済しており、残りの4100万円余りも父親の佐藤英樹氏(写真左)と共同で今後返済する意思を確認しているという。文理佐藤学園は英樹理事長が創立。学園は、経費の乱用を招いたのは「同族経営」に原因があると指摘。11月12日の理事会で仁美氏を懲戒解雇し、常務理事を務めた母親の富美子氏を「勝手に理事長印を押した」として諭旨解雇した。英樹氏は中高と大学の校長職を辞任するが、理事長職にはとどまるという。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 同族経営については今年8月18日の今日の朝刊「ロッテ、大塚家具のお家騒動…同族経営の功罪は?」でも触れました。改めて同族企業とは、特定の親族が組織を支配し運営している企業のことを指し、企業や学校法人は、創業者、創立者がいてその人が組織を大きくして生き残っていくわけです。その過程で、信頼できる兄弟や妻や子の力を借りて家業として頑張り、企業であれば、株の大半を親族がもち、役員にも親族が名を連ねるということがよくあります。上場企業になると、株を一般の人々に売らないといけませんし、社会的責任も大きくなりますので、同族企業が少なくなりますが、実質的な経営権を一族が持ち続けているケースを含めれば同族企業と言っていい会社はそれなりにあります。中小企業になると、同族企業のほうが圧倒的に多いと言っていいでしょう。

 同族企業のリスクは、創業者が年老いたときにあります。さすがの創業者も情報力、理解力、判断力などが衰えます。権力をゆずる相手を見誤ることがあります。あるいは、権力をゆずったはいいが、自分の考えと違うことを始めると、我慢できなくなる人もいます。文理佐藤学園の場合は、創立者が娘かわいさのあまり、資質を見誤って組織のトップに就けたあげくの不祥事だと思います。また、最近大騒ぎになった大塚家具の父娘の経営権争奪の争いやロッテの長男、次男の後継者争いのゴタゴタは、いったんは権力をゆずろうと思った創業者が思い通りにならないことに業をにやして、ちゃぶ台をひっくり返した結果です。

 ワンマン創業者の晩年に会社が傾いたケースはこれまでもたくさんあります。日本最大の小売業だったダイエーは創業者の中内㓛氏の晩年である2001年、業容を拡大しすぎたことから業績が悪化し、一族は経営権を手放しました。子弟の誰かが経営を引き継ぐものと見られていましたが、その夢はかないませんでした。西武鉄道もワンマン経営者の晩年に同族経営がつまずいた例です。バブル経済の頃、世界一の金持ちとされたこともある堤義明氏は父親の会社をついだ2代目ですが、超ワンマンで有名でした。しかし、2004年に有価証券報告書の虚偽記載問題などの責任をとって経営権を手放し、堤一族は西武鉄道の経営から身を退きました。ほかにも、大王製紙、不二家、林原、フジ・サンケイグループなども内紛や不祥事から同族経営が崩れた会社です。

 こうした同族経営のリスクをなくすために、みずから同族経営からの決別を選択した会社もたくさんあります。有名なのはホンダで、創業者の本田宗一郎氏は、子弟をホンダに入れませんでした。大きくなった会社は社会のものという考えで、「社名に自分の姓を使ったことが心残りだ」と言うほどでした。ソニーや任天堂などももともとは同族企業でしたが、後継の経営者は一般社員の中から選びました。パナソニックは、創業者一族と社員たちの間で経営者選びの暗闘がありましたが、結局、社員出身者が経営する会社になりました。

 同族経営を上手に続けている会社もあります。トヨタ自動車がその代表です。トヨタは、豊田家から経営者が出ることが一般的でしたが、1995年から2009年まで一般社員出身の社長が続きました。脱同族経営を選択したのかと思われましたが、リーマンショック後の危機的な状況で一族の豊田章男氏が社長に就きました。章男氏の資質に加え、周りを優秀で信頼できる社員出身役員で固めたことで、今のところ経営はうまくいっています。みこしを担ぐチームの力も大事なのでしょう。

 ほかにも代々優秀な婿養子を迎えることで同族経営の劣化を防いできたスズキ(今年就任した新社長は前社長の実子)のようなやり方や、株は手放さないものの経営者は外からスカウトしたサントリーのようなやり方もあります。

 昔から「会社は初代が大きくし、2代目が傾け、3代目がつぶす」といわれます。同族会社は、そうした世評と戦わないといけません。どうやって2代目でもっと大きくし、3代目でもっともっと大きくするように工夫しているか、同族企業を見るときはそういう視点で見ることが必要です。

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。

アーカイブ

テーマ別

月別