ニュースのポイント
「地元で就職した学生は奨学金の返還を免除します」という県の動きが活発になっています。それに対し、「都会で就職する学生も応援してほしい」という大学3年生の投稿が載りました。地方の県にしてみれば、優秀な若者に残ってほしいという気持ちを込めた切実な動きですが、都会に出て行きたい若者にすると、お上の方針にあらがっているというプレッシャーを感じる場合もあるようです。文部行政において「地方の大学の役割は地方に役立つ即戦力を育てること」といった考え方が強まっていることもこうした動きと関係しているのではないかと思います。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、オピニオン&フォーラム面(14面)の声「地元に残らない学生も応援して 大学生(23)」です。
投稿の要点は――私は地方の国立大学の3年生だが、「奨学生の地元就職後押し」(18日朝刊)の記事に不安を覚えた。地元で就職すれば奨学金返還を免除する自治体の取り組みは、悪いものではないのかもしれない。だが、私は「地方で学ぶ学生は地域に役立つことを学べ」「地元で就職しろ」というプレッシャーのようなものを感じた。地元に残らない学生もどうか応援してほしい。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
大学進学や就職のため、地元を離れて都会に向かう若者は昔からたくさんいました。東京の人口の大半は地方から出てきた人たちとその子孫で成り立っています。ただ最近は、地方から東京へという人の流れにブレーキをかけようという動きが強まっています。理由は、地方ほど人口の減少が大きく、特に若者が減っているためです。このままでは、地方の活気がどんどん失われるという危機感が強くなっています。特に大学生は将来の有望株なので、留めておきたい気持ちは強く、その一つの手段として奨学金返還免除が使われているわけです。
国の大学観の変化も関係しています。今年6月に全国の国立大学の学長に文科省から通知が届きました。「教育系学部や人文社会系学部の見直し」を求めるもので、「文系不要論か」と言われたものです。文科省は「文系不要論」ではないと言っていますが、こうした議論が出るのも、文科省内で地方の国立大学のあり方を変えようという意見が強まっているためです。地方の大学の英文学部では「シェークスピアではなく観光業で必要となる英語」を教えるべきだとか、地方の大学の経営・経済学部では「マイケル・ポーターの戦略論ではなく簿記・会計、弥生会計ソフトの使い方」を教えるべきだといった議論がされています。つまり、すぐに役に立たないような高尚な学問は一部の有名大学にまかせ、地方の大学は即効性のある知識を教えるべきだというわけです。これは、地方の国立大学は地方で活躍する人材を育ててほしいという考え方にも通じるものです。
でもこうした方向性で、本当にいいのでしょうか。今年ノーベル賞を受賞する大村智さんは山梨大学、梶田隆章さんは埼玉大学の卒業です。地方の国立大学で勉強し、そこから世界に羽ばたき、ついにノーベル賞にまでたどりつきました。すぐに地元に貢献したわけではありませんが、数十年経って今や大変な貢献をしたと言えます。地元に残るか県外に出るか、それは学生のまったく自由な判断です。プレッシャーなんて感じる必要はなく、大きな志を持って就活に臨めばいいと思います。成功した暁には、地元への恩返しをするということでいいではありませんか。
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