ニュースのポイント
南シナ海の小さな人工島をめぐり、米中が対立しています。米国の軍艦が、中国が領有権を主張するこの人工島のすぐそばを、あえて通過して航行の自由を行動で示す作戦を実行。中国は強く反発していますが、国際社会は中国の主張を認めていません。アジアの海で緊張が高まっている以上、日本も無関係ではありません。そもそも何が問題で、どうしてこんな対立が起きているのでしょうか? 今日は、南シナ海問題の「基本のき」を学びます。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、1面の「米艦 12カイリ内へ派遣継続/南シナ海/人工島付近を航行/中国反発『追跡し警告』」です。総合面(2面)に関連記事「時時刻刻/米、中国牽制へ強硬策/『度越す主張に挑む』」があります。
記事の内容は――米海軍のイージス駆逐艦が、中国が南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島で領有権を主張する人工島から12カイリ(約22キロ)内に進入し、航行の自由を行動で示す「航行の自由作戦」を行った。この海域で中国の領有権を認めない狙いもある。南シナ海の大半の海域を「9段線」と呼ばれる線で取り囲み、独自の管轄権を主張している中国は、外務省が「強烈な不満」を表明、米艦船を追跡したと発表した。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
南シナ海ってどこだかわかりますか? 地図を見てください。日本の南西方向の多くの国に囲まれた海で、世界の貿易船舶にとって重要な航路です。日本にとっても、中東からの原油を運ぶタンカーなどが行き交う大切な海。今回、米艦が通過したのは、フィリピンやマレーシアに近い海域です。中国からあまり近いとは言えないですよね。
ポイントを整理します。
【南シナ海】魚が豊富で、海底には多くの石油や天然ガスが埋まっていると言われる。今回問題になっている南沙諸島のほか、西沙(パラセル)諸島、中沙諸島、スカボロー礁(黄岩島)などの領有をめぐり、中国、台湾、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、マレーシアが領有権を主張している。
【歴史的経緯】領有権をめぐる周辺国間の対立が本格化したのは、天然資源の存在が指摘された1969年ごろから。中国は74年に西沙、88年に南沙諸島でベトナムと戦って一部を支配下に置いた。95年にはフィリピンが支配する南沙の環礁にやぐらを建て、コンクリート造りの施設につくり替え、実効支配を奪った。昨年、中国が南沙諸島のスビ礁と呼ばれる岩礁を埋め立てて3000メートル級の滑走路を建設していることがわかり、米国をはじめ国際的な非難が強まっていた。
【中国の主張と国際法】中国は、数百年前から南シナ海で漁をしていたなどとの論理を展開。南シナ海の8割とも9割とも言われる独自の「9段線」(上の地図にある点線)を根拠に、その範囲内の管轄権を主張しているが、米国などは国際法上の根拠はないとの立場だ。9段線は、1947年に当時の中華民国が作った地図に登場し、今の中国政府が引き継いだ。フィリピンやマレーシア、ベトナムの沿岸近くまで及び、九つの線を結んだ形状から「牛の舌」とも呼ばれる。中国の習近平国家主席は南シナ海の諸島を「祖先が残した古くからの中国の領土」と言うが、国際社会は認めていない。
【米国の立場】世界一の軍隊を持つ米国にとって、米軍の艦船が世界の公海を自由に航行できることは、唯一の「超大国」であり続けるための絶対条件。南シナ海が「中国の海」になることは決して認められない。先の米中首脳会談でオバマ大統領は習主席との私的な夕食会の席上、南シナ海問題を持ち出したが、習氏は取り合わずに決裂。オバマ氏は話し合いでは中国の態度を変えられないと判断し、米軍派遣を決断したとされる。
【日本への影響】南シナ海は日本と中東を結ぶ重要な海上交通路(シーレーン)。日本の原油輸入量の約8割は中東から運ばれている。万が一、南シナ海で紛争が起きてタンカーが通過できない事態になれば、日本のエネルギー問題にも発展する恐れがある。先に成立した安全保障関連法の一つ、重要影響事態法では、紛争が発生し放っておいたら日本が攻撃されてしまうような「重要影響事態」と政府が認定すれば、自衛隊が米軍をはじめとする他国軍に「後方支援」ができる。安倍首相は、重要影響事態が起こりうる地域として、南シナ海も例に挙げた。
簡単に解決する問題ではありませんが、もともと良くない日中関係にも大きく影響します。日本企業も事態の推移に注目しています。今後のニュースから目を離さないでください。
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