2015年10月22日

3分でわかる!消費税の「軽減税率」

テーマ:政治

ニュースのポイント

 消費税の軽減税率が大きな議論になっています。ケイゲンゼイリツ――と読んだだけでも、いかにも難しそうですが、実際、様々な要因が絡んでややこしい展開になっています。それでも、これから1カ月、連日ニュースに登場しますし、私たちの日々の暮らしに関わる身近なテーマ。企業にも大きな影響を与えますから、「わからない」では済まされません。難しい制度をやさしく解説します。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、総合面(2面)の「いちからわかる!/消費税の軽減税率 どんな制度なの?/収入の少ない人に配慮、食料品などの税率を低く抑える」です。7面の「軽減税率対象巡り火花/自公税調会長が初会談」も関連記事です。
 記事の内容は――軽減税率は、食料品など暮らしに欠かせない品物に課す消費税率を、例外的に低く抑える制度。通常の税率が20%前後と高い欧州で採り入れられていて、食料品のほか、水道水、新聞、雑誌、書籍、医薬品などが対象。日本では2017年4月に消費税率を8%から10%に引き上げるときに、収入の少ない人たちに配慮して導入することが検討されている。選挙で軽減税率を約束してきた公明党からは「お酒を除き、外食を含む全ての飲食料品を対象にすべきだ」との意見が出ているが、この案だと増税で得られる税収の4分の1が失われる計算になるため、自民党や財務省は反対だ。軽減税率を導入するなら、メーカーや卸売業者などもインボイスという請求書を発行する経理方式を導入する必要がある。規模の小さい業者には、事務作業が増えると反対論が強い。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 まずは、そもそも論から。国の借金総額が1000兆円を突破する一方、高齢化でこれから医療、年金、介護の社会保障にさらにお金がかかっていくため、国の収入を増やさないと財政も社会保障制度もいずれ破綻(はたん)してしまいます。そこで消費税率を上げることになりました。

 消費税は、老いも若きも買い物のときに納めるので世代間の不公平が少なく、誰もが世話になる社会保障の財源としてふさわしいと言われます。生活必需品にもかかるため、企業の利益にかかる法人税などに比べて景気動向に左右されず税収が安定していることも社会保障の財源に適している点です。世界では消費税率10~20%台の国が多く、日本は際立って低いという状況もあります。ただ、所得にかかわらず同じ税率のため所得が少ない人ほどより負担を重く感じる「逆進性」があります。その対策として、検討されているのが軽減税率です。

 考え方自体は単純です。消費税率を10%に上げるとき、食料品など生活必需品だけは8%のままで据え置き、税率を「軽減」することで負担感をやわらげようということです。
 ところが、実際にやろうとすると以下のようなハードルがあります。
①10%に上げるものと、軽減するものの線引きが難しい
②軽減対象を増やすほど、年金や子育てなどの社会保障にあてるお金が目減りする(グラフ参照)
③消費税率が二本立てになると、事務処理が複雑になり業者の負担が増える

 欧州各国では食料品以外のものも軽減対象にしています。グラフの例を見てください。国によってさまざまですが、多くの国が「民主主義社会の維持・発展や文化の向上に不可欠」などとして、新聞や書籍も対象にしています。

 生活必需品か、ぜいたく品かの線引きでは、
・店内で食べるハンバーガーは標準税率、持ち帰ると軽減対象(ドイツ)
・マーガリンは標準税率、バターは軽減対象(フランス)
という例もあります。「生鮮食品のみ」を軽減したとしても、何らかの加工があったものは生鮮食品ではないとすると、「刺し身用のアジとアジの干物」「マグロの刺し身と刺し身盛り合わせ」「和牛ステーキ肉と味付けカルビ」で、それぞれ10%と8%に分かれることになるかもしれません。消費者も戸惑いそうですね。

 さらに焦点になっているのが、記事にもある「インボイス」です。インボイスとは、取引するものやサービスごとに、消費税率と税額を記入した明細書のこと。きちんとした納税を促すためには不可欠だとされ、欧州各国は実施していますが、負担が増える業者や経済界はインボイス導入に反対。公明党は従来の伝票を生かして軽減税率の取引には印をつける「簡易型」インボイスを提唱していますが、それでしっかりチェックできるのかという問題もあります。

 このように課題山積ですが、来夏の参院選での公明党との選挙協力を重んじる安倍首相が公明党に配慮し、軽減税率導入に向けて議論するよう指示しました。11月中旬をめどに基本方針をまとめる方向ですが、7面の「軽減税率対象巡り火花」の記事にあるように、見通しはまだ見えません。今後のニュースに注目してください。

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