ニュースのポイント
大村智・北里大特別栄誉教授(80)のノーベル医学生理学賞に続き、東京大宇宙線研究所長の梶田隆章教授(56)の物理学賞受賞が決まりました。連日の吉報ですね。梶田さんの
ニュートリノの観測を支えたのは、浜松市の企業でした。大村さんの発見は、米国の大手製薬会社メルクによる抗寄生虫薬イベルメクチン開発につながって毎年4万人を失明から救っています。お二人の受賞決定を機に、ノーベル賞と企業の関わりについて考えましょう。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、経済面(9面)の「梶田さん受賞 技術で支え/浜松ホトニクス/観測装置の目開発」です。
記事の内容は――梶田さんのノーベル物理学賞受賞決定を、ものづくりの技術で支えたのが光センサー大手の浜松ホトニクス(浜松市)だ。手がけたのは、観測装置
スーパーカミオカンデの目となる「光電子増倍管」。微弱な光をとらえ、電気信号に変えることができる。2002年に物理学賞を受賞した小柴昌俊さんらが使ったカミオカンデでも、直径約50センチの世界最大の光電子増倍管を同社が開発し、1987年の
超新星ニュートリノの観測を成功させた。スーパーカミオカンデの管は性能を高めた改良型。5万トンの
純水が入った直径39メートル、高さ42メートルの円筒形タンク型観測装置の内壁に1万1200本が使われた。同社の晝間(ひるま)明社長は「これからも人類未知未踏を追求する科学者を微力ながら支えていく」とのコメントを発表した。(写真はスーパーカミオカンデの内部)
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
梶田さんは、岐阜県の神岡鉱山跡地にある装置「スーパーカミオカンデ」で素粒子ニュートリノを観測し、「ニュートリノ振動」という現象を初めてとらえ、重さ(質量)がないとされていたニュートリノに重さがあることを証明しました。宇宙の成り立ちや物質の起源の解明に大きな影響を与えた功績です。
十数年前、地下深くにあるスーパーカミオカンデの内部を見学させてもらったことがあります。点検か何かで水を抜いた巨大な円筒形の空間をのぞきました。黄金色に輝く丸い光電子増倍管が壁を埋め尽くし、何ともきれいで神秘的にすら感じる空間でした。
その光電子増倍管を作っているのが浜松ホトニクスです。この会社の技術力がなければ、小柴さん、梶田さんの2人のノーベル賞受賞はなかったかもしれません。同社の光センサーは、万物に質量を与える「ヒッグス粒子」の研究に送られた2013年のノーベル物理学賞の際にも、貢献しました。同社ホームページの社長メッセージにはこうあります。「光の研究と、それを基盤とした製品開発を通じて、光の本質を追究する。光を通じて絶対真理とは何かを探るために、いまだ解き明かされていない領域を探求する。そして、そこから生まれる新しい知識にもとづいた応用の可能性をもとに、新しい産業を創成する。 これが私たち浜松ホトニクスの未知未踏を追求する精神です」。企業の誇りが伝わってきますね。
梶田さんの受賞を支えた会社は他にもあります。今日の記事には、スーパーカミオカンデの巨大な構造物を建造した三井造船と、実験データを蓄積・解析するシステムを提供する富士通の喜びのコメントが載っています。ノーベル賞と企業の関わりでは、昨年物理学賞を受賞した中村修二さんが日亜化学工業(徳島県阿南市)の社員として青色発光ダイオードの製品化に道を開く発見をしたのが有名ですね。ただ、中村さんを含め日本人の歴代受賞者は、受賞のときには大学や公的な研究機関に所属するケースがほとんどです。そんな中、異色の存在は2002年に化学賞を受賞した田中耕一さん。受賞したときは島津製作所(京都市)の分析計測事業部ライフサイエンス研究所主任という肩書でしたが、今でも「シニアフェロー」という研究者の肩書で、同社に所属しています。
なお、今日の31面には就活生に役立つ「語彙・読解力検定」の記事が載っています。朝日新聞社とベネッセコーポレーションが実施している言葉の検定で、実際に就活で生きた大学生の話を紹介しています。秋の受検日は11月15日(日)で、公式サイトからの申し込みは10月18日(日)が締め切りです。ぜひ受けてみてください。
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