2015年09月04日

成績表で素顔見る!? 部活、バイト…広い意味の勉強も大切です(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:就活

ニュースのポイント

 採用面接で大学の成績表を使う例が増えています。エントリーシート(ES)に沿った受け答えより、成績表をもとにした受け答えのほうが、学生の「素」が見えるというのです。大学生の本分は勉学ですから文句はつけられませんが、大学の成績が社会人としての能力とイコールでないことも多くの人が知っています。企業側も「そんなことは百も承知。あくまで学生の素を見るための材料」というのでしょうが、学生にとっては気が気ではありません。試験の点数のためだけにあくせくする大学生が増えそうで、ちょっと心配です。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、社会面(35面)の「就活生の素顔『成績』で迫る/企業、面接対策防止へ活用/『成績表の信頼性、前提』/様式統一サービスも」です。
 記事の内容は――合否のカギを握るのは成績表――。大企業を中心に8月から解禁された採用面接で、大学の成績表を使う例が増えている。ESに沿った面接では、学生が問答を想定しており、本当の人物像が見えにくい。勉強への取り組みをとっかかりに、学生の「素」に迫る作戦だ。
 採用面接で社員は、学生の履修科目と成績がずらりと並んだ一覧表を見ながら質問した。「随分、単位を取ってきたね」。「1年生から単位を取らないと試合に出られないと先輩に言われました」。そう回答した男子学生は全国トップレベルの運動部に所属する。社員は「やらないといけないことも計画的にやり遂げられそう」と評価した。
 素材メーカー「帝人」は2013年から、面接で成績表を使っている。志望動機や自己PRを記入させるESと違い、成績をもとに質問すると、「どこを突っ込まれるのかわからないから学生が準備できず、素の部分が見える」と帝人の藤本治己・人事総務部長は説明する。成績が下がった科目があれば、理由を尋ねる。理解できなかったのか。別のことに興味が向かったのか。怠けていたからか。それとも、担当教員が嫌いだったのか。「成績を評価するのではなく、成績表から質問を掘り下げ、求めている人物なのかを確認する」
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 かつては、成績表を就活に利用する企業は少数派でした。大学時代の成績が、実社会での活躍とは必ずしもリンクしないと企業は考えていたからです。必要な知識や教養は会社で教えるから、素材さえ良ければそれでいいという考え方です。中には、大学で勉強してこられると会社の色に染めにくくて困る、という会社もあったと思います。

 私もその「恩恵」に浴したひとりです。私は、大学時代、運動部の活動に大半の精力を使いました。成績は「不可」(単位なし)こそありませんでしたが、ぎりぎり合格の「可」が目立ち、「優」はほんの少し。とても胸を張って人様に見せられるものではありませんでした。それに、4年冬の最後の試験で半分以上の単位を取りましたので、就活時点では空欄だらけの成績表だったはずです。朝日新聞社は、就活の時には成績表を求めませんでした。4月の入社式直前に持ってくるように言われました。「今さら、入社はなかったことに、なんて言われないよな」と、びくびくしながら成績表を出したことを覚えています。

 私は昨年から、ある女子大学で非常勤講師をしています。みんな、まじめだなあと思います。自分の学生時代に比べて、授業への出席率は格段にいいと思います。熱心にノートをとりますし、遅れて教室に入ってくる学生もほとんどいません。とてもいいことだと思います。

 ただ、気になることがあります。最初の講義ガイダンスの時から、学生は「試験は○×式ですか、論述式ですか」「持ち込みは可ですか不可ですか」といった質問をします。試験が近づくと、どんな問題が出そうなのか探りに来たとしか思えない質問をしにくる学生もいます。自分たちの頃、こんなに試験のことを気にしただろうか、と思います。もしかしたら、かつてより企業が大学での成績をみるようになったことと、学生が試験を気にすることはリンクしているのかもしれません。

 大学は勉強するところです。ただ、勉強には、いろいろな勉強があります。部活動だってアルバイトだって恋愛だって、勉強と言えば勉強です。机上の勉強だけではなく、こうした広い意味の勉強も社会に出て役だったと思う人は多いでしょう。そして、一生の友人ができれば、それも大学に入った大きな意味だと言えます。

 記事にあるとおり、企業は成績表を素の人柄を見るためのきっかけとして使っているだけ、ということを信じたいと思います。成績はいいにこしたことはありませんが、いい成績をとることばかりを考えてあくせくする学生生活を送っていると、広い意味の勉強がおろそかになる人がいるかもしれません。そうすると、面接者にもっと話を聞きたいと思わせるような人間的魅力や面白い体験が不足することになりませんか。成績は、就職力のパーツの一つに過ぎないと思った方が良さそうです。

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