2015年07月16日

電源構成どうなる? 原発は? 再生エネは?

テーマ:環境・エネルギー

ニュースのポイント

 2030年の電気をどのようにまかなうのか。「電源構成(エネルギーミックス)」の計画を政府がまとめました。電気は私たちの暮らしや経済を支えるインフラ中のインフラであり、あらゆる産業や企業に関わるテーマです。計画には、原発事故の経験や地球温暖化への影響など様々な要因も絡みます。押さえておくべきキーワードやそれぞれの電源の特徴などをわかりやすく解説します。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、総合面(7面)の「教えて! 電源構成⑧『国民的議論』反映されたの?」です。
 記事の内容は――原発も再生可能エネルギーも2割程度とする電源構成案が、16日に正式決定する見通しだ。経済産業省は国民からの「パブリックコメント」を反映するとしているが、結論が変わることはなさそうだ。民主党政権は経産省が担ってきた原発・エネルギー政策を首相官邸主導にし、意見聴取会やパブリックコメントによる「国民的議論」を踏まえて「原発ゼロ」を固めたが、2012年末に誕生した安倍政権はエネルギー政策を経産省の所管に戻した。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

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 2011年3月の東京電力福島第一原発事故のあと全国の原発がストップし、電力不足に陥りました。節電で夜の街は暗くなり、計画停電もありました。あって当たり前だった電気のありがたみを感じ、この電気がどこでどうやってつくられているのかに初めて思いをはせたものです。その後、節電や原発以外の発電量が増えて安定的に供給されるようになり、4年以上「原発ゼロ」が続いています。一方で民主党政権が掲げた将来の「原発ゼロ」の目標は安倍政権になってあいまいになり、まもなく原発の再稼働が予定されています。

 「電源構成」とは、生活や産業に欠かせない電気を安定的に供給するために、
①原発
②再生可能エネルギー(太陽光、風力、バイオマス、水力、地熱)
③火力(液化天然ガス=LNG、石炭、石油)
の電源の組み合わせをまとめたもので、政府は3~5年ごとに見直しています。日本は火力に使う燃料の大半を輸入に頼っており、長期の資源調達や設備投資計画を考える必要があるからです。2030年の電源構成と発電コストをまとめたのが上の図です。

 「教えて! 電源構成」の8回の連載が今日で終わりました。これまでの連載記事をもとに、それぞれの電源の見通しや課題を整理します。

【原発】経産省による試算では、発電コストは1キロワット時で10.3円以上で、石炭火力や水力より安い。消費者の負担増を抑えるため、「最安」の電源に頼るしかないという理屈で原発は「20~22%」必要と結論づけた。ただ、大きな事故に備えた廃炉や損害賠償、除染などの損害賠償の「事故リスク対応費」は経産省も「最低限」の金額としており、今後大きく膨らむ可能性もある。
 2割達成には30基以上の原発が稼働する必要があるが、民主党政権が定めた原発の寿命「原則40年」規定に従えば、2030年に運転できる原発は23基(建設中の3基含む)で、総発電量の15%しかまかなえない。審査をクリアすれば最長60年までの運転延長を認める「例外」規定を利用して目標達成をめざす。

【太陽光】再生エネの割合は「22~24%」と現状から倍増する見通しだが、太陽光と風力は再生エネ全体の4割未満の計8.7%にとどまった。天候によって出力が変わるため補う分の火力が必要。その調整費用と、再生エネの買い取り費用が電気料金に上乗せされる仕組みのため、電気利用者の負担増抑制を理由に、抑制された。

【石炭火力】コストは安いが、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO₂)排出量がLNG火力の2倍以上と多いのが欠点。それでも東日本大震災後頼りにされ、2010年度に24%だった発電電力量に占める割合は、2013年度は約30%に。福島県に東電が、千葉県に九州電力と出光興産などが、神戸市に神戸製鋼が、仙台市に関西電力と伊藤忠が建設を計画している。環境NGOによると国内の新たな石炭火力発電の計画が計47ある。

【地熱・バイオマス】天候にかかわらず安定的に発電できる。地熱は今の3倍弱、バイオマスは2.5倍前後に増やす。地熱は地下数千メートルから熱水を取り出し、その蒸気でタービンを回して発電。「火山列島」の日本では約2340万キロワット分の発電ができると推定され、米国、インドネシアに次ぐ世界3位の多さ。ただ、実際に稼働しているのはその2%。候補地の8割は開発が制限される国立・国定公園内にあるため、開発規制の緩和が前提。山間地などでの開発には多くの費用と期間がかかる。間伐材や木くず、食品の廃棄物を燃やして発電するバイオマスは発電効率が高い大型施設が増えているが、燃料の木材が不足する懸念も。

【LNG】CO₂の排出量が石炭の約6割と少なく、火力の中では「環境にやさしい」電源。だが原発の代わりとして輸入量が急増し、燃料費は震災前の2倍超となり、電気料金値上げの要因にも。日本が調達するLNGの価格は原油価格に連動して決める契約が多く、少し前の原油高もあり、欧州の約2倍、米国の約4倍だ。輸入先を多角化し、原油価格と連動する割合を減らす必要がある。関西電力は英石油大手BPのグループ会社と原油から切り離した輸入契約を結び、東京ガスと住友商事は米国のシェールガスを液化して輸入する計画。

【ベースロード電源】政府は、発電コストが安く昼夜を問わず安定供給できる「ベースロード電源」として、原発、石炭火力、地熱、水力の四つを挙げ、これらで2030年の電源構成の計56%を占める。石炭火力などの「ピーク電源」は燃料費は高いが出力を調整しやすく電力消費が多いときに使う。燃料費がやや高いLNGは「ミドル電源」。欧米は2030年に5割前後、2040年代には4割台に下がる。再生エネは気象条件に左右されるが、需給バランスの予測精度を高めたり、出力を調整できる電源を増やしたりすれば、ベースロード電源は減らすこともできる。

 それぞれ一長一短ですね。電力やエネルギー業界だけでなく、再生エネには多くの企業が進出していますし、省エネビジネスも盛んです。電力構成の基本的なところは押さえておきましょう。

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