2015年05月21日

イルカ問題どう考える?論点たくさん

テーマ:社会

ニュースのポイント

 追い込み漁で捕ったイルカをこれからも入手するために世界動物園水族館協会(WAZA)を離脱するか、残留して入手をやめるか――判断を迫られていた日本動物園水族館協会(JAZA)は、組織にとどまることを決めました。今後は追い込み漁で捕ったイルカは購入できなくなります。各地の水族館で人気のイルカショーはどうなるのでしょうか。自然保護のあり方、国際、文化摩擦などいろんな問題が浮かび上がりました。あなたはどう考えますか?(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、1面の「追い込み漁イルカ 購入禁止/動物園と水族館 国際組織残留へ」です。社会面(39面)には「イルカ展示 曲がり角」が載っています。
 記事の内容は――追い込み漁によるイルカの入手を問題視され、JAZAがWAZAから会員資格を停止された問題で、JAZA理事会は20日、残留希望を決めた。JAZAに加盟する水族館は追い込み漁をしている和歌山県太地町(たいじちょう)からのイルカの購入を禁止される。加盟水族館63、動物園89の全152施設が、WAZA残留か離脱かを投票。残留99票、離脱43票だった。残留を決めたことで、加盟施設は今後もWAZAのネットワークを生かし、展示や繁殖のために、スマトラトラやアムールヒョウ、レッサーパンダといった希少種のやり取りができる。JAZA会長は「今後は飼育しているイルカの繁殖を推進するなど、対応策を検討したい」と述べた。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

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 イルカが見事なジャンプを見せてくれるショーは、多くの水族館の目玉ですよね。私も子ども連れでよく見に行きました。イルカのニュースは、この華やかなショーの裏側に様々な課題があることを教えてくれました。

 問題点を整理します。
【経緯】WAZAは10年以上前から、イルカの群れを入り江に追い込んで捕獲する追い込み漁を、WAZAの倫理規定に違反し「残酷」だと批判してきた。今年4月にはJAZAの会員資格を停止し、太地町からのイルカ購入をやめなければ除名すると通告。JAZAによると、加盟水族館63施設のほぼ半数が、計約500頭のイルカを飼育。各地の水族館は、太地町で捕獲されたイルカを毎年20頭前後購入している。すぐに水族館からイルカがいなくなるわけではないが、太地町から入手できなくなると、数年後には影響が出てくる可能性がある。一方でWAZA会員でなくなると、海外の施設との希少種のやりとりが難しくなるため、JAZA内でも離脱、残留で意見が割れていた。

【イルカの追い込み漁】和歌山県太地町で行われている伝統的な漁法。複数の漁船でイルカが嫌う金属音を立てて群れを湾内に追い込む。批判的に取り上げたアメリカの映画「ザ・コーヴ」が2010年に米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞して世界的に注目された。反捕鯨団体「シー・シェパード」による抗議活動、キャロライン・ケネディ駐日米大使による「追い込み漁の非人道性について深く懸念」とのツイッター書き込みなど、たびたび批判されてきた。古式捕鯨発祥の地とされる太地町は、クジラ漁とあわせて文化を築いてきたと主張。追い込む速さを緩めたり、大きな群れは追わないなどイルカへのストレスを減らすなどの改善もしてきたという。

【繁殖】欧米では近年、イルカは繁殖で増やすのが基本。国内にも、飼育するバンドウイルカ10頭中7頭が館内で生まれた「新江ノ島水族館」(神奈川県藤沢市)など繁殖に取り組む水族館があるが、繁殖用のプールなどにコストがかかるうえ繁殖技術も難しい。

 社会面には「見る側の意識も問われる」との記事が載っています。JAZA前会長の山本茂行・富士市ファミリーパーク園長の話によると、WAZAは2005年、水族館が自然から生物を収奪するのではなく、自然保護センターとしての役割を果たしていくことを求めました。欧米では、野生の生き物を捕まえて飼い、ショーをすること自体を否定する動きが強まっているそうです。山本さんは「イルカショーは、イルカ本来の行動や習性を伝えるものだったのか、ただの見せ物だったのか。国民の水族館に対する意識も問われる」と言っています。

 そもそも、動物園や水族館の意義ってなんでしょうか? レクリエーション施設であることに加えて、自然や生物、生態系についての理解を広め、絶滅の危機にある希少種の保護や繁殖を進める、といったところでしょう。一方で、狭いオリや水槽に閉じ込めて展示することや、芸を仕込んでショーを見せること自体が「動物虐待」という意見もあります。

 いろんなテーマにつながりますね。私たち国民の意識も問われています。どこで話題に出るかわかりませんよ。ニュースを読み、事実関係を押さえたうえで、自分の意見が言えるようにしておきましょう。

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