ニュースのポイント
「ベア」という言葉が毎日のニュースに登場しています。ベアはベースアップの略で、全社員の賃金水準を一斉に引き上げること。いま大手企業が続々とベア実施を決めています。これから賃上げの動きが中小企業まで広がり、格差縮小につながるかが焦点です。ベアを通じて、自動車業界や日本経済の構造を知りましょう。
今日取り上げるのは、経済面(8面)の「春闘60年 賃上げの行方/トヨタ、ベア月4000円で決着/下請け 賃上げの兆し」です。
記事の内容は――2015年3月期に過去最高の2.7兆円の営業利益を見込むトヨタ自動車の労使交渉は、月4000円のベアで決着したが、賃上げがすそ野を支える小さな部品メーカーにも広がるかが焦点だ。自動車産業はピラミッド構造でトヨタのような完成車メーカーを頂点に、そこへ部品を納める1次下請け、その部品をつくるための部品を納める2次下請け、さらにそこで使う部品を納める3次下請けと重層的。トヨタ本体の労使交渉は小さな町工場にまで影響する。名古屋市内のトヨタの3次下請け部品会社は昨年の平均3000円の賃上げに続き、今年も「昨年以上に賃上げする」と社長は言う。一方、ギア関連部品をつくる愛知県刈谷市の3次下請け会社の社長は「ベアなんて夢のまた夢」とぼやく。海外展開する余力が乏しい企業の命運を左右するのは国内生産だが、トヨタの国内生産は3年連続減。同県内の別の3次下請け会社も売上高は2008年のリーマン・ショック前の半分程度だ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
まず言葉の意味を整理しましょう。今日の記事のタイトルにもなっているのが「春闘(しゅんとう)」です。
【春闘】賃上げや働く時間の短縮など労働条件の改善を求め、毎年2月から3月にかけて各企業の労働者でつくる労働組合が経営側と交渉するもので、「春季闘争」の略。同じ業界の多くの労組で賃上げ要求などの足並みをそろえて交渉したほうが影響力が増すため、1955年から毎年行われている。
賃金が上がる仕組みには、定期昇給とベア、賞与アップがあります。
【定期昇給(定昇=ていしょう)】年をとったり働く年数が増えたりすると、仕事の能力が高まったとみて、基本給(毎月の基本的な給料)が自動的に増える仕組み。社員の年齢ごとの平均賃金を表す賃金カーブ(グラフ)は緩やかな右肩上がりになる。
【ベースアップ(ベア)】賃金カーブの線を上にずらして、全社員の賃金水準を一斉に引き上げること。物価水準を賃金に反映させたり、会社の業績が上がったときにもうけを従業員に分けたりするときに行う。一度ベアを実施すると、その後も長期にわたって人件費が増えるため、景気があまり良くなかった2013年までの約20年間は多くの会社がベアをしなかった。大企業の業績が良くなり、昨年から実施する企業が増えた。
【賞与(ボーナス)アップ】夏や年末に、毎月の給料とは別に社員に支払われる一時金。金額を毎年増減できるため、業績が良かったものの先行きがわからない企業は、ベアではなく賞与のアップで対応することが多い。
まもなく各業界の春闘交渉で、大手企業のベアが決着します。業績が好調な自動車、電機などの大手メーカーの多くは2年連続のベアを実施する方向です。これで、安倍政権の経済政策アベノミクスがめざす【企業が賃上げ→個人消費が増える→モノが売れる→企業が潤う→企業が賃上げ】という経済の「好循環」に一歩近づきそう。ただ、今回のベアは消費者物価の上昇率(2014年度の日本銀行の見通しは2.9%)には届きそうにないので、どれだけの好影響をもたらすかは不透明です。
もう一つの焦点は、大企業の好業績がすそ野の広い中小企業に広がるかどうか。今日の記事にもあるように、こちらはまだ「まだら模様」です。こうした日本の産業構造や経済の大きな流れを知ることは、あなたの業界研究、企業研究にもきっと役立ちますよ。
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