2015年01月30日

3分でわかる!超やさしい「ピケティ入門」

テーマ:経済

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 世界的なベストセラーで大ブームになっている「21世紀の資本」の著者トマ・ピケティ氏が来日し、朝日新聞などが主催するシンポジウムで講演しました(写真)。「現代のマルクス」「ロックスター経済学者」などとも呼ばれるくらいの有名人ですから、知らないと社会人と話すときに恥をかくかもしれません。でも難しそうだし……という人向けに、3分でわかる超やさしい「ピケティ入門編」です。

 今日取り上げるのは、社会面(33面)の「『不平等が拡大』と警鐘/『21世紀の資本』著者ピケティ氏講演/異例13万部 解説書もヒット」です。
 記事の内容は――ピケティ・パリ経済学校教授は29日の講演で、日本などの先進国で「この数十年間、不平等が拡大している」と警鐘を鳴らした。これまで資本主義国では経済成長で生まれた富を多くの人が分け合い、豊かになれると広く信じられてきたが、ピケティ氏は著書で各国の数世紀にわたる租税資料を分析。株式などの資産を元手にして得られるもうけは、経済成長で一般の人が得る所得より大きく伸びる傾向があると主張。講演では、戦後、お金持ちも貧しい人も成長できたのは、戦争による破壊で資産が失われたうえ、所得の多い人から多めに税金をとる累進課税が広がったためで、例外的なケースだったと説明した。しかし、1980年代から富裕層に資産が集中する傾向が強まっていると指摘した。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

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 700ページ以上、税込み5940円もする「21世紀の資本」(みすず書房)が今、書店で平積みされています。原書は2013年にフランス語で出版され、昨春、米国で英語版が出て人気に火がつきました。ドイツ、韓国、中国など各国でベストセラーになり、日本語版は昨年12月に発売。以来、経済書としては異例の13万部が売れ、アマゾンのベストセラーランキングでも1位になりました。29日の講演会も申し込みが殺到し、入場券は10倍の倍率になりました。

 ピケティ氏はフランス生まれの43歳。22歳で富の再分配についての論文で博士号を取得し、フランス経済学会の年間最優秀論文賞にも選ばれた「天才経済学者」です。これだけ話題になると、採用選考の場面でも話題にのぼるかもしれませんし、まったく知らないというわけにもいきませんよね。実は私もまだ分厚い本は読んでいないのですが、ピケティ氏のインタビュー、特集記事などには目を通してきました。その中でもっとも分かりやすかったのが、週刊朝日1月23日号の「ピケティ『21世紀の資本』は、アベノミクスへの警告!」でした。以下、この記事の内容をさらに簡単にして紹介します。ポイントは三つです。

【ポイント1】金持ちがよりもうかるのが資本主義
 格差拡大の原因は「r>g」。「資本収益率(r)は、経済成長率(g)より大きい」と読む。先進資本主義国で土地や株などの資産をたくさんもつ富裕層が1年間で投資から得られる収益率(r)は4~5%。一方、普通に働く人が経済成長の恩恵として受け取る(g)は1~2%。だから経済が順調に成長しても、富裕層はより大きな利益を得るため格差は広がり続ける。「資本主義が発展すると一時的に格差が広がるが、やがて縮小する」という経済学の一般的な定説を覆した。

【ポイント2】20世紀の格差縮小は例外
 資本主義誕生から20世紀初めまで広がった格差が1910年代から1970年代は縮小した。これは、19世紀末から20世紀にかけて各国で所得の多い人ほど税率が高い累進課税が導入され、さらに1929年の大恐慌や2度の世界大戦で富裕層の資産が減ったため。1980年代以降、米国を先頭に各国で富裕層や企業への減税が実施され、再び格差は大きくなった。

【ポイント3】格差を減らす累進課税強化へ各国協調を
 では、資本主義経済のもとでより平等な社会にするにはどうしたらよいのか。格差是正に有効なのは所得や資産に対する累進課税。ただし今のグローバル社会では、企業や富裕層は税率の低い国に逃げるため、世界各国が協力して「世界的な資本税」を導入すべきだ。

 3の実現が難しいことについては、ピケティ氏自身「ユートピア的」と認めたうえで、各国の政治が積極的に関与すべきだと主張しています。現実はどうでしょうか。日本では、安倍政権の2年間で大企業の業績は回復、株価も約2倍になりました。一方で物価上昇分を引いた実質賃金指数は前年同月と比べて17カ月連続で減り、富裕層との格差が広がっているといわれます。さらに企業に対する法人税を下げて、誰もが負担する消費税は上げる方針ですから、アベノミクスはピケティ理論の立場からは評価できないとの指摘もあるわけです。国会でもピケティ氏の格差論が取り上げられ、論戦になっています。

 さあ、これだけ理解しておけば、ピケティ氏の話題を振られても多少の議論はできますよね。もちろん、もっと詳しく知りたい人はぜひ大著を読んでみてください。1月6日の「業界トピックス・技術革新は格差を助長する?仕組みを考えよう」でも取り上げています。ご一読を。

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