2015年01月22日

テロとどう向き合うか、一人ひとり考えよう

テーマ:国際

ニュースのポイント

 イスラム過激派組織「イスラム国」による日本人人質事件。日本が明確にテロの標的になった衝撃的な事件だけに、今日の朝刊には、日本政府の動き、「イスラム国」の分析、身代金に対する各国の対応……多くの関連記事が出ています。識者や読者の意見をもとに、昨日に続いてこの問題を考えます。

 今日取り上げるのは、オピニオン面(15面)の「『イスラム国』邦人人質の衝撃」です。4人の識者の概要は――
 今回の事件は、2000年代に入り様変わりしてきた中東世界に対応する外交政策を日本が打ち立てる必要性を示している。集団的自衛権行使の問題も含め、中東関与のあり方を再検討する局面に来た。日米同盟の名の下に中東まで踏み込む「積極的平和主義」を続けるなら、テロ勢力を敵に回す可能性も増す。政権も国民も、本当にその覚悟があるのかが問われている。(臼杵陽・日本女子大学教授)

 事件は従来型のテロではなく、新しい形の「国家」、ないしはそれに準ずる組織による新しい形の戦争行為と位置づけるべきで、日本の政府や企業は世界水準の危機管理の態勢を作る必要がある。中長期的には中東の文化、異文化の理解を深めることが大事だ。(小川和久・軍事アナリスト、静岡県立大特任教授)

 昨年パレスチナがイスラエルから受けた攻撃で2000人以上が死亡し、うち約500人は子どもだった。明らかに戦争犯罪だ。今回のような事件は大きな騒ぎになるのに、イスラエルの責任は国際社会で問われず、日本政府が問題視しているようには見えない。イスラム社会にある反発を生み出した責任の一端は、欧米、そして日本にもある。軍事力でたたいても対症療法に終わるだけ。事件の背景を根源的に考える必要がある。(野中章弘・早大教授、アジアプレス・インターナショナル代表)

 和平をもたらすには「イスラム国」を根絶する必要がある。「イスラム国」の国境閉鎖後、地上軍の投入が必要。欧米ではなく中東地域のイスラム教国の軍が向かわねばならない。関係国は地域全体の政治についても議論しなければならない。(ピエール・ラズー・仏軍士官学校戦略研究所部長)

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 読者の投稿欄「声」にも、人質事件についての5人の意見が載っています。いくつかポイントを紹介します。

・テロに屈するべきではないが、何とか2人を救出する方法はないかと悶々(もんもん)としている。

・国内でのテロ行為を未然に防ぐための対策が緊急に求められる。イスラム過激派に呼応してテロ行為が起きる可能性は否定できず、万全の措置が必要。

・日本人が人質になったことに不安感にかられる一方、イスラム諸国やイスラム教徒への偏見や警戒心が増さないか心配。日本が欧米による「イスラム国」の掃討に協力し平和国家からテロと戦う国となれば、日本人がテロの標的になるのではと不安。テロを許してはいけないが、武力の行使はテロ撲滅にはつながらないと思う。

・安倍首相が唱える「積極的平和主義」は、戦争が無い状態だけでなく貧困や差別をなくすために貢献するものだが、アメリカ型の「武力による平和」と誤解される危険がある。違いを明言し、平和憲法をはじめとする従来の平和主義を、平和的な手段で積極的に世界に広めれば誤解や紛争は避けられ、平和国家としての基本的姿勢も国際社会にアピールできる。

・人質救出に身代金を払うのも一つの方法だ。国際社会から「さらなる人質事件を生む」と非難されると専門家は言うが、フランス人やスペイン人は身代金を払って解放されたと報じられている。別の解決法もある。人質の後藤健二さんは、紛争で被害を受ける子どもや市民の現状を伝え、イスラム文化への理解が深まる報道を目指していた。殺害は「イスラム国」に重大な損失だと訴えて。イスラム過激派との争いを解決しなければ世界中の人は安心して生活できない。各国協力して対話路線に導いてほしい。軍事力で本質的な解決はできないのは明らかだ。

 千葉県の大学生は最後にこう書きました。
「私たち日本人は、テロとどう向き合うのか。一人ひとりが考えなければならない時がついに来たのだと思います」
 就活は社会、世界について考える機会でもあります。国際関係、テロ、戦争と平和、宗教、文化など、考えるテーマは山ほどあります。紹介した意見も参考に、みなさんもこの問題について考えてみてください。

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