2015年01月21日

「イスラム国」人質事件 なぜ日本?

テーマ:国際

ニュースのポイント

 イスラム過激派組織「イスラム国」によるとみられる日本人人質事件が起きました。絶対に許せない野蛮な行為です。日本は戦後の平和外交で中東の多くの国と良好な関係を保ってきましたが、この組織には通じません。事件の背景とともに、この機会に日本と中東の関係についても知っておきましょう。

 今日取り上げるのは、1面の「『イスラム国』2邦人人質/2億ドル要求『断れば殺害』/映像公開 72時間内の対応迫る/首相『脅迫 許しがたい』」です。今日は、1面コラム「天声人語」のほか、各面に関連記事が載っています。
 記事の内容は――「イスラム国」のメンバーとみられる男が72時間以内に2億ドル(約236億円)を払わなければ拘束している日本人2人を殺害すると脅す映像が20日、インターネット上に公開された。中東訪問中の安倍首相は同日、イスラエル・エルサレムで記者会見し「許しがたいテロ行為」と非難。テロには屈しない姿勢を示しつつ、関係国と連携して早期解放に当たる考えを示した。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

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 ネットの映像は「日本の政府と国民へのメッセージ」とのタイトルで、「あなた方の政府は、『イスラム国』と戦うために2億ドルを払うという馬鹿げた決定をした」と、日本政府だけでなく私たち国民に向けても声明を出してきました。「イスラム国」についてはイラク、シリア北部でのひどい行動が報じられても、身近には感じられなかった人も多いと思いますが、私たちにとって対岸の火事ではないことがはっきりしました。

 なぜ日本人が狙われたのか。安倍首相が17日、エジプト・カイロでの演説で、「イスラム国」が勢力を広げるイラクやシリアなどに難民・避難民支援などとして約2億ドルの無償資金協力を発表。「『イスラム国』がもたらす脅威を少しでも食い止める」との決意も表明しました。このタイミングで日本を明確な「敵」に見立て、無償資金協力と同額の2億ドルを身代金として求めれば、世界中で大きく取り上げられるのは間違いありません。「イスラム国」は周到に効果を計算し、世界に存在感を示す絶好機とみて配信したとみられています。

 「イスラム国」の声明では、安倍首相に対し「あなたは我々の女性と子供たちを殺し、イスラム教徒の家々を破壊するために、1億ドルを得意げに提供」「イスラム戦士に対抗する背教者を訓練するために、もう1億ドルを差し出した」としています。しかし、首相が表明したのは難民・避難民支援の医療や食料の提供であり、住んでいた街や国を追われる人たちが激増するなかで不可欠の人道的な援助です。そもそも根拠のない批判です。

 日本は穏健派の中東諸国と特別な関係を築いてきました。欧州はかつてこの地域を植民地支配しましたし、米国はパレスチナを抑圧するイスラエルを支援しています。中東諸国にとって日本は、こうしたしがらみがない珍しい先進国なのです。日本がエネルギーの7割をこの地域に依存しているという経済的な結びつきのほか、多数のイスラム教徒にとって日本は、非欧米世界で経済成長を成し遂げた成功例であり、非軍事的な平和主義が尊敬の対象でもありました。米国主導のテロとの戦いで多くの民間人が犠牲になったアフガニスタンなどでは、米国によって二つの原爆を落とされた日本は「自分たちの痛みをわかってくれる唯一の先進国」と考える人もいるといいます。日本政府は、これまで培ってきた穏健なイスラム諸国との関係を生かし、連携をさらに強めることで「イスラム国」に人質を解放し暴挙をやめるよう説得していくしかありません。

 こうしたテロや人質事件は企業にも無縁ではありません。2013年1月にはアルジェリアの天然ガス施設をアルカイダ系とみられる武装組織が襲撃。プラント大手「日揮」の日本人10人を含む人質40人が死亡しました。こうした事態を受けて、グローバル企業はテロなどの非常時の対応策を進めているはずです。さらに事件は世界情勢や経済にも影響を及ぼします。今後の展開に注目しましょう。

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