2016年05月06日

36年ぶり党大会、北朝鮮ってどんな国?(一色清の「今日の朝刊」ウイークエンド)

テーマ:国際

ニュースのポイント

 6日の朝刊はお休みです。ときどきは新聞配達の人にも休んでもらおうと、1年に10回ほど新聞休刊日というお休みが設けられています。ということで、今回は「今日の朝刊」を「昨日の朝刊」にして、5日の朝刊から選びます。「北朝鮮 あすから党大会」という記事です。北朝鮮は朝鮮労働党という政党が支配する一党独裁の国です。この労働党の党大会が国の最も大事な会合になりますが、開かれるのは何と36年ぶりです。北朝鮮は、珍しく各国の大勢の記者を受け入れて、取材をさせています。なぜ今開かれるのか。その狙いは何なのか。この国の動向は日本にも大きな影響があります。就活生も常識として北朝鮮の基礎知識を身につけておいた方がいいと思います。

 今日取り上げるのは、3面(総合面)の「北朝鮮 あすから党大会」です。
 記事の内容は――北朝鮮の国家方針を決める第7回朝鮮労働党大会が6日、平壌(ピョンヤン)で始まる。党大会開催は36年ぶり。金正恩(キム・ジョンウン)第一書記の個人独裁を強化し、内外に宣伝する行事となる。核・ミサイル開発を維持する一方、経済は低迷し、具体的な数値目標を示すのは困難とみられる。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 北朝鮮は1948年にできた国で、正式な国名は朝鮮民主主義人民共和国といいます。今の韓国と北朝鮮のある地域は古くは李氏朝鮮というひとつの国でした。日本が1910年に併合して植民地にしました。1945年に日本が戦争に敗れると、北緯38度線より南をアメリカが、北をソ連が支配しました。1948年には両超大国の後押しをうけて、南に大韓民国(韓国)が、北に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が生まれました。北朝鮮はソ連が後ろ盾ですから社会主義国で、トップには戦争中ソ連で日本に対抗するゲリラ活動をしていた金日成(キム・イルソン)氏がつきました。1950年には朝鮮戦争がはじまり、韓国はアメリカを中心とした国連軍とともに、北朝鮮はソ連の援助を得ながら中国の軍とともに戦いました。いわゆる東西冷戦代理戦争として戦われたのです。戦いは一進一退が続き、1953年に北緯38度線を境に休戦することにしました。休戦協定は今も変わらず生きていますので、北朝鮮と韓国は今も戦争を休んでいるだけというわけです。

 北朝鮮は、当初はソ連の援助で重工業が発達し、工業国として成長しました。一方で、韓国は農業中心で、1970年代前半くらいまでは「北朝鮮のほうが豊か」という見方が多くありました。ただ、ソ連の国力が落ちてくるのに伴い、北朝鮮の経済も行き詰まりを見せ始め、一方で日本やアメリカの経済協力を得た韓国は目覚ましい経済発展を遂げました。1980年代になると、はっきりと「韓国のほうが豊か」となり、北朝鮮は飢餓と隣り合わせの国になりました。この1970年代後半から1980年代にかけて、北朝鮮は戦争を続けているつもりで、拉致やテロを繰り返していたのです。

 1990年前後には、ソ連を中心とした社会主義国が次々に崩壊し、資本主義国に代わっていきました。しかし、北朝鮮はドミノ倒しに巻き込まれず、体制を維持しました。金日成氏は1994年に死去しましたが、息子の金正日(キム・ジョンイル)氏が後を継ぎました。金正日氏は、核開発やミサイル開発を進めました。一方で、韓国の金大中(キム・デジュン)大統領とトップ会談をして朝鮮の統一に前向きな姿勢を示したこともありました。また、日本との国交を結ぶために拉致問題解決へ踏み出そうとした時期もありましたが、拉致被害者に関する情報が信頼できないとする日本側の不信は消えず、再び冷え込みました。

 金正日氏が2011年に死去すると、息子の金正恩氏が国のリーダーの地位に就きました。3代続けての世襲トップという近代国家では考えられない体制が続いたわけです。29歳で後継者になった金正恩氏は、体制固めのためかアメリカなどを振り向かせるためか、側近を粛清したり、国連決議に違反する核実験やミサイルの発射を行ったりしています。そうした行動への反発として、援助国だった中国との関係が悪くなったり、国連で一段と強化された経済制裁が実施されたりしています。国民の生活が飢えと隣り合わせであることは変わらず、世界で最も貧しいレベルの国と見られています。

 金一族の恐怖の独裁が続き、国民生活は貧しいとなれば、革命でも起きそうな気がしますが、そうなりません。それはなぜでしょうか。私は最大の理由は関係国がどこも破綻(はたん)を望んでいないことだと思います。韓国は、「朝鮮半島の統一」を長期的な目標に掲げていますが、実際には貧しい北朝鮮を受け入れる余裕はなさそうです。若者の失業が社会問題になっているのに、2500万人もの人々をどうやって食べさせるのか、というわけです。隣国中国は、北朝鮮がなくなってアメリカ軍が駐留する国と国境を接するというのは勘弁してほしいと思っているはずです。日本やロシアは、北朝鮮が崩壊して大量の難民が押し寄せてくる可能性を憂慮しているに違いありません。ということで、おとなしくしてくれさえすれば、今のままが一番いいというのが関係国の本音ではないでしょうか。

 建国して70年近くたって、ほとんどの国民が今のような体制しか知らないというのも大きいと思います。自由や豊かさを知らず、恐怖だけが植え付けられていれば、立ち上がる勇気やエネルギーが出ないのかもしれません。

 36年ぶりの党大会は、金正恩氏の体制を強化するための儀式だと思われます。金正恩氏は実質トップになって5年になりますが、まだどんな考え方を持っているかはよく分かっていません。党大会でする演説の内容や党大会に合わせてすると思われるパフォーマンスをよく分析したいと思います。みなさんも「とんでもない国」とだけ思わずに、テレビニュースや新聞記事をよく見てください。

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